負担増に戸惑いや不安
「ゆっくり手を開いて。はい、今度は閉じてくださいね」
宇部市郊外にある特別養護老人ホーム「アスワン山荘」のデイサービスセンターで、お年寄りが演歌や民謡に合わせ、簡単な体操やゲームをしていた。動きを間違える度に笑いが起きる。
「人と触れ合って楽しむことが一番の予防法ですよ」。センターを運営する麻生孝行・総合施設長はお年寄りを見守りながら、来年4月、本格的にスタートする新たな介護保険制度に不安を隠しきれない。
新制度では、介護の必要度が低いとされる「要支援」「要介護1」の認定者を対象に、要介護度が悪化しないように「新予防給付」が創設される。
筋力トレーニングや口腔(こうくう)ケア、転倒予防訓練といった新サービスが検討され、現行の訪問介護やデイサービスなどは「介護予防」向けに内容が変わる可能性がある。
厚生労働省は介護予防の導入により、2014年時点で要介護者を40万人、給付費を1兆円抑制できると見込んでいる。
アスワン山荘で介護保険の給付を受けながら、デイサービスを利用している人は40人。うち30人が「要支援」と「要介護1」の認定を受けているが、介護予防の内容によっては、デイサービスを利用しない人が増えることも考えられる。
麻生施設長は「サービスの選択の幅が狭まり、デイサービス単独の事業者は淘汰(とうた)される。従来のサービスに親しんでいた利用者が、自宅に閉じこもりにならないか心配」とこぼす。
一方、小郡町で、特別養護老人ホーム「小郡・山手一番館」を運営する岩崎美智子施設長は、介護保険制度が始まった2000年当時、苦い思い出がある。
要介護に認定された人、されなかった人……。これまで一緒にデイサービスを受けながら、対応が分かれたため、利用を取りやめた人もいた。
「利用者は『予防』と『介護』を分けることに困惑するはず。制度を納得してもらうのに時間をかけたいが、今回は説明する時間さえない」と頭を悩ませている。
新制度導入の背景には、軽度の要介護認定者が急増し、サービス利用が将来の保険財政を圧迫しかねないとの懸念がある。
「要支援」と「要介護1」は、2000年の84万2000人から、05年には200万6000人に増加。在宅サービスの利用者は5年間で149万人増え、当初の2・5倍になった。
県介護保険室によると、2004年度の介護保険財政は、12市町で実質赤字になり、国、県、市町村が積み立てている財政安定化基金から約2億8400万円を借り入れた。
同室は「予想以上に在宅サービスの利用が多く、計画を上回った」と説明、06~08年度に保険料を引き上げるなどして返還するしかないという。
新制度の第1段階として、10月からは、施設での居住費や食費が保険対象外になり、全額が利用者の負担になる。家賃や光熱費を全額負担する在宅の高齢者との格差をなくすためだ。
困惑する利用者は多いが、県老人福祉施設協議会の副会長で、美祢市の特別養護老人ホーム「幸嶺園」の徳永あけみ園長は「当然進むべき方向」と受け止める。
徳永園長は「少子高齢化に歯止めがかからない以上、これからは介護保険を使わず、いかに地域で『生きがい』対策が出来るかが課題」と話し、気軽に集まれる場所の必要性などを訴える。
「今、介護は地域の力が試されるとき。その地域の声を国政へ届けてほしい」と衆院選に期待している。
読売新聞
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