「老老介護」傷害致死 支え続け、追い詰められ

折れた心、どう支えるか


富山市で先月、重度の認知症だった夫(当時77歳)を掃除機の柄で殴って死なせたとして、約5年間介護にあたっていた妻(72)が傷害致死容疑で逮捕された=同罪で既に起訴。夫は24時間目が離せない状態だった。高齢者が高齢者を支える「老老介護」の末の悲劇。同様の事件は、全国で後を絶たない。防ぐ手だてはなかったのか、現場を歩き、考えた。【蒔田備憲】


破綻(はたん)


起訴状などによると、須藤恵美子被告は昨年10月26日から11月1日、富山市内の自宅で、夫秀治さんの腰や尻を数発たたき、外傷性ショックで死亡させた。富山県警などの調べに対し、「言うことを聞かず、むずがったから」と供述しているという。県警は「幼い子どものしつけのように手ではたいたりしていた行為がエスカレートしていった可能性が高い」とみている。


秀治さんは、約5年前に発症した認知症が徐々に悪化していた。目の前にある食事も、須藤被告が手を添えて口に運ばねばならず、トイレも服を脱がせなければ1人で済ませるのは困難だった。24時間態勢で見守る必要に迫られ、須藤被告は昨年4月、パートタイマーとして働いていた富山競輪場を辞めて介護に専念した。


老老介護


「無口だが、いつもニコニコしているだんなさんと、『こっち来られ』と、だんなさんの手を引く奥さん。仲良く見えたのに、どうしてこんなことに」。5年前から秀治さんが通っていたデイサービスの関係者は、ただ戸惑っていた。


秀治さんの遺体には複数の傷跡が残っていた。デイサービスの報告書には、半年ほど前から、秀治さんの腕や顔に傷があり、手当した記録が残っていた。秀治さんが最後に通所したのは事件の前々日。この日も、職員がでん部に十数センチの青アザが残っているのを確認していた。兆候はあったのだ。しかし--。


「秀治さんは、普段から転んだり、自動ドアに頭をぶつけたりしていた」。関係者は振り返る。擦り傷や打撲はいわば、「あって当たり前」だった。それ以上に、老いて認知症となった穏やかな夫を、長年連れ添った妻が黙って支える、というイメージが、孤独の中で追い詰められていった夫婦の実像を覆い隠していた。


孤立から救え


相談相手もなく介護に追われる介護者。外出が減り、疲労や不満などを吐き出せずに希望を失っていく。認知症患者を介護する場合は、その傾向が顕著だ。「認知症の人と家族の会県支部」の電話相談には毎晩、「暴力をふるわれた」「将来が不安で眠れない」など、介護者の悲鳴にも似た声が寄せられる。


認知症患者は一見穏やかでも、家庭でもそうだとは限らない。周囲には手がかからないように見えても、実際には介護者の心身は削り取られていき、ある時、折れてしまう。勝田登志子事務局長は「地域住民が介護者の声に耳を傾け、孤立から救わないと介護者を守れない。介護者を支えることが患者を救うことにもなる」と語る。


高齢者介護の問題に詳しい立命館大大学院の天田城介准教授(社会学)は「00年の介護保険制度導入後も、介護の末、という事件が一向に減っていない。当事者を救う機能を果たしていない」と指摘する。「現状では、介護ボランティアを積極的に取り入れるなど、制度の枠外の取り組みが必要だ」と話す。


現場で


今月中旬、主のいなくなった2人の住まいを訪れた。軒下には、黄色い花が初夏の太陽を浴びながら、伸び伸びと咲いていた。この花と壁1枚を挟んだ屋内で事件は起きた。同様の事件を防ぐため、介護者を孤立から救うために何ができるか。いずれ介護者や被介護者となる私たち一人一人が考えなければならない課題だ。


毎日新聞
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