病状は人生映す鏡 浦上克哉さん
安心感を患者に伝えているか 鳥取大医学部(米子市)
コンピューターを使った物忘れ相談プログラム、というものがある。「これから三つの言葉を言います。声にだして言ってみてください。後でまたたずねます……」。そんな音声とのやりとりで、アルツハイマー型の認知症かどうか分かる。年月日や図形を問う質問が続き、画面にふれて答えていく。
プログラムは5分ほど。認知症を専門にする神経内科医、浦上克哉が、何千人もの患者と接してきた経験から手短に診断できるよう編み出した。器材は持ち運びができ、04年に製品化され、各地の検診などで使われている。
米子市西町の鳥取大学医学部教授(生体制御学)として研究を進めながら、隣り合う医学部付属病院で「物忘れ外来」を担う。倉吉市の信生病院でも診察にあたる。
なかでも患者の半数を占めるアルツハイマー型への対処を急ぐ。進行を抑える薬がつくられたいま、早期発見で相当食い止められる、と予防の大切さを訴えている。
記憶にかかわる神経細胞が減るアルツハイマー型。映画鑑賞にたとえると、年のせいにしがちな物忘れならストーリーの一部を思い出せないだけだが、アルツハイマー型になると映画に行った記憶自体が欠け落ちてしまう。
徘徊(はい・かい)や理解しがたい言葉などを伴う。しかし、どんな問題行動にも必ず意味がある、とみる。患者の様子は、人生を映したメッセージ。目を凝らし、耳を澄ませることで、ケアのかぎを探る。記憶は失っても、「思い」「感じる」という感情の動きは、健康のときとほぼ変わらないのだ。
年齢をたずねると、「18」と答える80歳過ぎの女性がいた。診断を進めると、戦前は裕福な「お嬢さん」育ちだったのに、終戦以降は土地を失い、苦労をして娘3人を育て上げたという。18歳だった頃、女性は心から安心できた。その時代への固執は、老いた後への不満の表れだった。
「ばかなことを言って」と女性の娘は、母を笑いたてていた。そんな娘を母は「あの人」と呼び、他人のように接する。母の話をきちんと聴くように周りにすすめると、答える年代は上がり、最後には実年齢に近くなった。
認知症になった人に対して子ども扱いしがちだが、それは病状をひどくさせる、と浦上は語る。
自身は幼いころ病弱で、高熱に感染症、と医師の世話にならない季節はなかった。そのころの小児科医森先生との出会いが、今に至る原点。怖くてならなかった注射も、柔和な森先生だと大丈夫。ただ若くして逝ったことを知り、先生みたいになりたい、と医学部に進んだ。
認知症に有効な薬がなかった20年余り前から物忘れ外来に努めている。東京や大阪の患者も、米子市の鳥大医学部付属病院を訪れるようになった。
出会いから40年余。森先生の記憶はおぼろげになったが、あのころおぼえた安心感を、患者に伝えているか。そんなことをふと思う。
朝日新聞
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