(102)夫と離婚話 財産分与が心配
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
『
静さん(仮名、66歳)は、同い年の夫と結婚して40年になる。一人娘は結婚して家を出ている。夫は昔から暴力癖があり、年を取ればおさまるかと我慢していたが、定年後はお酒も加わってますますひどくなった。
我慢も限界になり、離婚を娘に相談したところ、賛成してくれた。夫に離婚を申し出たところ、「この家を売って半分くれれば離婚してもいい」と言われた。自宅の土地建物は静さんが親から相続したもので、静さん名義だ。しかし夫は「結婚して40年にもなるのだから、自分にも半分権利はあるはずだ」と言う。静さんは心配になって弁護士に相談した。
結婚後、夫婦協働の貢献で手に入れた財産は、どちらの名義であっても離婚にあたっては財産分与の対象になる。しかし、静さんの自宅は親から相続したもので、取得については夫の貢献はない。夫の給料から固定資産税などを払ってきたような場合は、維持についての貢献が考えられるが、静さんは、夫がギリギリの生活費しかくれないので、固定資産税は自分がパートで働いたお金から払ってきた。そうだとすると、夫は自宅不動産については、財産分与の権利はない。
弁護士の説明に静さんはほっとしたが、実際問題として離婚は簡単ではない。夫は、年金はあるが、離婚すると住む家がなくなるからだ。ギャンブル好きの夫には、預金はほとんどない。
協議離婚が難しいとなると家庭裁判所の離婚調停で話し合うしかないが、同居したまま調停をするのは精神的にも大変だ。娘が「私がお父さんに話してみる。転居費用も援助する」と言ってくれたので、それに懸けてみることにした。夫も娘に見放されるのは不安なはずだ。それでもだめだったら調停の申し立てをしようと静さんは決心した。(中山 二基子、弁護士)
読売新聞