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(98)生前贈与 遺産に加える

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。


2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。


わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。


人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。


そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。


介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。


今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。


福子さん(仮名、45歳)は、妹と二人姉妹だ。今年、相次いで両親が亡くなり、妹と遺産分割の話し合いをしている。しかし、そのたびに両親から受けた差別的扱いが思いだされてつらい。


福子さんはおとなしく目立たない子だったが、5歳年下の妹は明るくてかわいく、両親の自慢の子だった。ところが、両親は年をとると、昔のことなど忘れたかのように、妹ではなく、何でも福子さんを頼って用事を頼むようになった。


福子さんが一番悔しいのは、家を買ったときのことだ。福子さん夫婦は必死に倹約して貯蓄し、10年前に建売住宅を購入した。両親はお祝いに花瓶を贈ってくれた。一方、妹夫婦は3年前にマンションを購入した。両親はローンが大変だろうと、1000万円を援助した。福子さんが文句を言うと、「時代が違うから」の一言で片付けられた。


福子さんは弁護士に、このような不公平な扱いを相続のとき是正できないかと相談した。生前、子どもの一人が、親から住宅購入資金を贈与されたような場合は、相続時の遺産に生前贈与を加えたものを遺産とみなし、遺産分割を行う。生前贈与を遺産の前渡しと考えて修正し、相続人の間の公平を図ろうという考えだ。


福子さんの場合、父親の遺産は3000万円なので、妹に生前贈与した1000万円を加えた4000万円が遺産とみなされる。相続人は2人なので、福子さんの取り分はその2分の1の2000万円だ。妹の取り分は生前贈与分を差し引いた1000万円だ。


福子さんは弁護士の説明を聞いて、「これで、やっと気持ちが晴れます」と答えた。遺産分割でもめる場合は、相続人の間で不公平感が根底にある場合が少なくない。40年前、50年前の不満が持ち出されることも珍しくないのだ。(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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