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(97)後見申し立て 内緒は無理

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。


2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。


わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。


人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。


そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。


介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。


今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。


喬さん(仮名、60歳)は、父親(85歳)の「後見の申し立て」をするつもりだ。父親は母親が亡くなった後、認知症が進んで一人暮らしが難しくなった。そこで、介護職員などと相談して、父親名義の自宅を売って、介護付きの老人ホームに入ることになった。しかし、認知症の父親が自分で自宅を売却したり、老人ホームの契約をしたりすることはできないので、後見人が必要になった。


喬さんは、長男だから当然、自分が後見人になるつもりでいた。ところが、次男、三男から猛烈な反対が出た。もともと兄弟仲が良くなかったうえに、喬さんがサラ金からの借金が原因で、たびたび親に迷惑をかけたからだ。サラ金に手を出すような者に父親の財産管理を任せるのは心配だというのだ。


しかし、喬さんは「サラ金問題は弁護士に頼んで解決している。今更それを持ち出すのは不当だ」と考え、「自分が後見人になれないか。兄弟に内緒で後見の申し立てができないか」と、弁護士に相談した。


喬さんが、自分を後見人に推薦して「後見の申し立て」をすると、家庭裁判所は他の兄弟に、後見の手続きを必要と思うか否か、喬さんが後見人候補者になっているがどう思うかなどについての照会書を送る。家庭裁判所はそれらの意見を参考に職権で後見人を選ぶのだ。つまり、後見の申し立てを兄弟に内緒にしておくことはできない。


子どもの間で後見人について激しい対立がある場合、通常、どの子どもも後見人には選ばれない。中立の立場にある弁護士などの専門家が選任されることが多い。喬さんの場合、兄弟の反対に加えて借金の過去もあるので、後見人に選ばれない可能性が強い。喬さんは、弁護士の説明を聞いてやっと納得した。(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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