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(93)生活費の立て替え 明確に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。


2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。


わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。


人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。


そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。


介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。


今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。


誠さん(仮名)の母親(87歳)は、10年前に夫を亡くした。最近、認知症が出て一人暮らしが難しくなったが、それでも自宅を離れたくないと言って、住み込みのヘルパーを頼み、何とか暮らしている。しかし、費用が毎月60万円を超え、とても年金では足りない。母親は昔からお金に無頓着で、欲しいものがあると見境がなくなる。お金がなければ誠さんに買わせるが、返してくれたことがない。


母親は毎月、預金を下ろしていたが、預金がいよいよ底をつき、自分の親から相続した土地を売るしかなくなった。すぐに買い手が見つかり、誠さんはホッとしたが、売買の登記を担当する司法書士が母親に面会したところ、「お母さんは重度の認知症なので、後見人をつけなければ移転登記は引き受けられない」と説明された。誠さんは、「子どもたち全員が同意しているからいいのでは」と言ったが、「そういう問題ではない」と言われた。


誠さんが家庭裁判所に「後見の申し立て」をすることになったが、準備期間も含め、申し立てをすると、後見人が決まるまでに3か月はかかるだろう。その間の母親の生活費をどうするか。誠さんもローンを抱えて生活が苦しく、買い物を頼まれるたびに妻に嫌みを言われるので、これ以上、無償の援助はできない。


そこで、立て替えの生活費を返してもらえるのか、弁護士に相談した。弁護士からは、「多額の生活費を立て替えた場合は、土地の売却代金が入れば返してもらえるだろう。その場合、貸し付けたことが分かるように、必ず母親の口座に振り込みにしておくことだ。後見の申立書に、母親の債務としてそれを書いておくのがよい」と助言された。たとえ親子でも、金銭関係は明確にしておく必要がある。(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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