福祉船「夢ウエル丸」乗船記 動くデイサービスセンター
◇就航から15年、笠岡の7島10港を巡る
笠岡市の有人7島、10の港を巡る福祉船「夢ウエル丸」が就航して15年。高齢化の波にさらされる島々で、「動くデイサービスセンター」として、瀬戸内の福祉の“水先案内人”を務めてきた。全国でも珍しい船に同乗した。【山崎明子】
◇寄港、お年寄りが心待ち
◇健康チェック、レクリエーション、入浴…
「職場」へ
午前8時過ぎ、市内の伏越港近くの桟橋から出港。外から見ると普通の客船だが、船内に入ると階段には電動リフト、身体障害者用のトイレが完備されている。乗船したのは介護福祉士や船員ら8人。スタッフの引き締まった表情が、「職場」に向かう緊張感を漂わせている。
この日向かったのは、北木島の大浦港。約1時間後に着岸した。15人ほどの利用者が、ぽつりぽつりとやってきた。まずは脳卒中防止の水分補給にお茶を飲み、血圧、体温測定。健康状態についてスタッフと話す。「若いころは芝居をやっていた」という92歳の女性は、「一人暮らしだけど、パパが仏壇にいるから毎日お世話しているんよ。頑張って人生の櫓(ろ)を漕(こ)いどります」と話してくれた。軽い認知症とのことだが、その明るい笑顔に病の存在はうかがえなかった。
お風呂2種類
健康チェックが済むと、レクリエーションと同時並行で入浴タイム。健康な人は直径2メートルの円形のお風呂でのんびり。体が不自由な人は、寝たまま入れる特殊浴槽でスタッフに体を洗ってもらう。
20年前に食堂を息子夫婦に譲ったという河田ミサワさん(93)は特殊浴槽でさっぱり。嫁の直美さん(60)によると、介護が必要になったのは5年ほど前。足腰が衰えたミサワさんを自宅で入浴させるのは一苦労だったという。内気なミサワさんが外出を楽しんでいるのは、家族としてもうれしいことだ。
高齢化止まらず
65歳以上が人口に占める高齢化率は、市内島しょ部で56・3%(07年)。市全体の28・4%(同年10月末)をはるかに上回り、10年前に比べて18・5ポイント上昇している。医者が不在で福祉施設もない島もあり、独居や老老介護の厳しい現実が透けて見える。
「夢ウエル丸」は市が約1・9億円をかけて建造、93年1月7日に就航した。介護保険の対象外で、高齢者なら誰でも利用できる。船の就航前は、島しょ部に福祉施設はなく、介護サービスはなじみの薄いものだった。
95年から生活指導員として乗船している中塚俊夫さん(39)は勤務初日が忘れられない。二人暮らしの老姉妹の部屋は汚物にまみれ、親せきすら立ち寄らない。船に誘うため訪問したところ、真新しいトレーニングウエアにいきなり排せつ物を浴びた。「シビアな職場」。それでも、人生の最終章に立ち会うことの重みが自分を支えているという。
スタッフ奮闘
利用者が帰途についた後、スタッフたちに話を聞いた。介護福祉士の安福初江さん(52)は「船は揺れるので事故防止に気は使うが、寄港をお年寄りが心待ちにしてくれるのが陸の施設とは違う」と話す。「国内唯一の福祉船にあこがれた」という船員の河田恵美さん(25)は最近、ヘルパー2級の資格を取得した。一度は船を降りたものの、数年前にアルバイトとして復帰した初代船長の原田康男さん(71)は、「人口が減っても島の親密さはきっと変わりませんよ。年寄りが健康でいられるように、この先5年、10年と運航を続けてほしいですねえ」と目を細めた。
毎日新聞タグ: デイサービスセンター, 夢ウエル丸
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