ケア開国:インドネシア介護士/上 「入居者との会話楽しみ」
◇施設でのバイト経て再来日、「熱心」評価高く
インドネシアから、看護師・介護福祉士の候補者約300人が8月上旬、来日する。医療・介護分野の外国人労働者の本格的な受け入れは初めて。介護施設の人材不足が一段と深刻化する中、外国人受け入れのモデルケースになるのか。日本人の老後はだれがみるのか。「開国前夜」の状況と課題を追う。
<拝啓 インドネシアはいろいろな花が咲いて、美しくて、いいお天気です>
今年6月、川崎市の特別養護老人ホーム「しおん」(深瀬亮一施設長、25人)に一通の手紙が届いた。リポート用紙に黒いペンで「早ければ早いほどいいと思いますので、またしおんで働きたい」と書かれていた。
差出人は、メイダ・ハンダジャニさん(27)。06年に留学ビザで来日し、同じインドネシア人看護師と今春までしおんでアルバイト(資格外活動)をしていた。来月、今度は日本・インドネシア経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補として来日する。
「日本のお年寄りと話すのが楽しみ。大変だけど、やりがいがある」。メイダさんは今、日本に行く日を心待ちにしている。
しおんの主任、富田稔さん(39)は「仕事の合間に日本語の教科書を読んだり勉強熱心でした。排せつ介助もできるし、掃除も隅々まで嫌がらずにこなす」と高く評価する。メイダさんは2年半の日本滞在中に日本語検定2級、ヘルパー2級の資格も取得した。
お年寄りの評判もいい。メイダさんや同僚のフランシスカさん(27)から介護を受けた大竹良子さん(88)は「分からない漢字をメモ帳に書いて持ってきて『なんて読むんですか』って。孫みたいに可愛かった」と振り返る。別れる際には、フランシスカさんに「たまには思い出してください。いつまでもお元気で。Goodbye」と日記に書いてもらったという。柴崎徳子さん(84)も「最後の日に私が泣いていたら、彼女たちが『泣かないで』と肩をさすってくれた」と懐かしむ。
メイダさんは、しおんに手紙を出した後にEPAの介護士募集を知り応募した。しかし、しおんはメイダさんの手紙が来る前に今回の受け入れを見送っており、別の施設で働くことになる。
茨城県五霞町の特養ホーム「きららの杜」も05~06年にインドネシア看護師の研修を受け入れた。入浴や食事介助で忙しい日本人職員に代わって、入所者の話にじっくり耳を傾けていたという。奥冨和弘副施設長(38)は「性格が明るいし、話を聞いてくれる親身なお姉さんとして人気があった」と語る。
しおんやきららの杜のインドネシア人たちは、来日前に中部ジャワ州サラティガの日本語学校で勉強していた。外国人が日本の介護現場で働く時代が来る、と考えた東京・渋谷の人材派遣会社が、5年以上前に同州で看護師への日本語教育プログラムを試験的に実施。参加したのがメイダさんら25人だった。
学校では5カ月間、日本人教師らの指導を受けた。言葉だけでなく、風呂の使い方など生活習慣の細かな違いもカリキュラムに組み込まれ、教室には「じかんをまもりましょう」と標語が掲げられた。メイダさんと一緒に日本に行ったティアス・パルピさん(26)は「遅刻すると宿題が倍になったり大変でした。でも日本に行ったら、時間に厳しいのは本当だった。厳しくしてくれてよかった、と思いました」と話す。
この参加者の中からメイダさん、ティアスさんら4人がEPAの介護福祉士枠で日本に来る。今回来日する看護師、介護福祉士候補の中には、日本語を話し、日本の生活習慣を理解しているインドネシア人はほとんどいない。しかし、メイダさんは「最初は苦労すると思うけど、他の人(候補者)たちを助け、がんばりたい」と、希望に胸を膨らませている。【石丸整、ジャカルタ支局・井田純】
◇4年上限に「特定活動」ビザ発給
看護師・介護福祉士の受け入れはインドネシア側の要望で、EPAに盛り込まれた。受け入れ枠は2年間で看護師400人と介護福祉士600人。ただ初年度の応募は低調で、看護師176人、介護福祉士137人と予定の約6割にとどまった。
応募資格は、看護師枠がインドネシアの看護師資格を保有し2年以上の実務経験があること、介護福祉士枠は大学卒か高等教育機関(3年)の修了--など。看護師は3年、介護福祉士は4年を上限に「特定活動」のビザを発給する。
来日後、候補者は半年間の日本語研修をへて病院・施設内で実務研修をしながら国家試験合格を目指す。看護師試験は最大3回受けられるが、介護福祉士は3年の実務研修が受験の前提となるため1回だけ。合格した場合に限り、引き続き就労が認められる。
フィリピンとも同様の協定を締結したが、フィリピン国内の手続きが遅れている。
今回の受け入れを、厚生労働省は協定に基づく「特例的なもの」と位置づけ、人材不足のためではないとしている。07年の介護職の離職率が前年比1・3ポイント悪化の21・6%(介護労働安定センター調べ)に上る介護現場の危機感とはずれが大きい。【有田浩子】
毎日新聞
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