75歳からのくらし/4 障害補う、夫婦の絆

2008年 05月 27日 (火) | Category : 介護ニュース

◇「力合わせて、うまくやらないと」 介護サービス利用し、家事分担


行川(なめかわ)正雄さん(85)とヨシ子さん(80)夫婦が暮らす東京都大田区の自宅。玄関近くにスズメが群がっている。昼下がりなのに、と見ると、スズメの輪の中心に米がまかれていた。


「入院しなくてもよくなったんですよ。うれしくてね」。糖尿病などを抱えるヨシ子さんは、うふふ、と笑った。入院すると、2人が支え合う生活は崩れる。弾んだ気持ちのおすそわけが、スズメたちへの米だった。


結婚したのは、1947年。5人の子どもをもうけた。正雄さんは、地域でさかんだったのりの養殖の仕事をしていたが、埋め立てで養殖業が終わる前から、ミシンなどの工場で働いた。90年1月、雪道を自転車で通勤する途中、転んで頭を打った。その際の脳出血がもとで両足などに機能障害が残り、車いすの生活を送る。


買い物は正雄さんの役目だ。週2回、介護ヘルパーに車いすを押してもらいながら、スーパーマーケットに行く。「どこのものですか」とヘルパーに産地を確かめながら、ヨシ子さんと打ち合わせた通りに買っていく。


家に帰ると、買ってきた野菜をヘルパーに切ってもらう。足が不自由なヨシ子さんが手すりやつえに頼って家の中を移動する。横になって休んだ後、米を炊き、おかずを作る。「どうにかこうにかやってますが、時間がかかってねえ。年を取るってことは難しいですねえ。昔はできたことができなくなる」と話す。


2人で月10万円の年金や正雄さんの労災保険金を入れると1カ月の収入は約40万円ある。しかし、約50年住む家は頻繁に修理が必要で、光熱費もかかる。出来合いの総菜を買うことも多く、食費はかさむ。さらに、医療と介護の費用が月約8万円に上る。正雄さんは月3回、ヨシ子さんも2~3回通院する。2人とも足が不自由なので、通院にはタクシーが欠かせない。


正雄さんは、障害者用の福祉タクシーを利用している。リフト付きで、車いすを固定できるワゴン車だ。病院の予約時間の約1時間前には家を出て、待合室で過ごす。「診察室にいるのは5分ですよ。早く死んじゃった方が楽だね」と嘆く。


通院費用はタクシー代を含め、月に約1万5000円。大田区から支給されるタクシー券は1カ月3600円分だ。ヨシ子さんは自宅にタクシーを呼ぶ。往復で約2000円。診察代、薬代も含めて月に1万円程度を費やす。


介護サービスも、買い物や洗濯の家事補助のほか、保険外で正雄さんの外出の付き添いをしてもらっており、計2万6000円かかる。介護保険料はそれぞれ2カ月で2万1000円、健康保険料は月5000円。保険料の年金からの天引きは10月からで、負担の増減はまだ分からない。


正雄さんの楽しみの一つは読書。「本を読んでいると時間を忘れますからねえ」という。枕元に常備している地図帳には、中国・四川大地震の被災地に赤線が引いてあった。


正雄さんは、ヨシ子さんを評して「こんな強情な女はいないね」という。言葉とは裏腹に、しんぼう強さをたたえる気持ちがこもっている。ヨシ子さんは昨年末、自宅で足をすべらせ、尻もちをついた。激痛に襲われ、後に尾てい骨骨折と分かったが、痛み止めでしのいだ。けがの翌日には、炊事をしていた。正雄さんが生死の境をさまよった時も病院に通いつめた。


ヨシ子さんは「この人と結婚してよかった。よくしてもらいました。今は力を合わせてうまくやらないと大変だ」と話す。


老夫婦の穏やかな生活。長年、築きあげてきた深い絆(きずな)が支えている。【亀田早苗】=つづく


◇高まる福祉タクシー需要 普及には公的補助必要


高齢者の増加につれ、通院などのタクシーの需要は高まっている。国土交通省によると、車いすやベッドのまま利用できる車両などを使う「福祉タクシー」の許可台数は昨年3月末現在、全国で9651台(前年比13・5%増)に上る。ここ数年急増しており、国は基本方針として「10年度までに約1万8000台の導入」を目指している。


しかし、車いすやベッドのまま利用できる車両は購入経費がかかるほか、病院での待ち時間があるため運用効率が悪く、公的な補助がなければ、運営は難しい面もある。


国は、モデル事業として昨年末、全国福祉輸送サービス協会(全国約300事業者)の近畿支局大阪支部による「大阪福祉タクシー総合配車センター」(06・6268・2945)の設立を認定した。国、大阪府などの補助を受け、83社が共同で高齢者らの電話予約を受けている。運転手はホームヘルパーやケア輸送士の有資格者。だが、4月末までの利用者は177人にとどまっている。


同協会によると、東京都の補助を受け、同協会東京支部は2年前、配車センター(03・5287・5294)を設立した。月間約150件の電話はあるものの、体調の変化などによる急なキャンセルも多く、「潜在需要は高いが調整が難しい」という。料金は30分ごとに東京は2600円から、大阪は2000円から。迎車1000円のほか乗降介助などに料金が必要な場合もある。


毎日新聞
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