後期高齢者医療制度 元厚生労働相・尾辻秀久に聞く

2008年 05月 26日 (月) | Category : 介護ニュース

◇「天引き」など配慮足りず
◇骨格は間違っていない--経済財政諮問会議が国民の不安招いた


後期高齢者医療制度への批判が高まり、自民・公明両党が見直しに着手した。一方、野党4党は、同制度の廃止法案を参院に提出した。元厚生労働相で、長年同制度の議論にかかわってきた尾辻秀久・自民党参院議員会長(67)にこの混乱をどう見るか聞いた。【太田阿利佐】


--後期高齢者医療制度について国民の怒りが強い。


尾辻--議員仲間でもそうですよ。75歳以上の方はカンカンです。塩川正十郎先生(元財務相)もそうだし。堀内光雄先生(元自民党総務会長)は論文まで出されて……。


--混乱の原因をどう見ているか。


尾辻--制度が変われば、国民は不安を持つ。なのに説明をきちんとしていなかったのが最大の原因でしょう。米国は約4000万人が医療保険に入っておらず、病気になったら医療費は全額負担で、極めて悲惨です。日本はみんなが医療保険に入り、これが支えとなって世界一の長寿国ができた。国民皆保険制度は国の宝。それを守るための後期高齢者医療制度なのに、理解されていない。高齢者から今まで保険料を取っていなかったのに、取り始めたという誤解まである。被扶養者の75歳以上の方は例外だったなど、細かい違いはあるのですが。


--制度の骨格には問題はない、と。


尾辻--私も大きくかかわってきましたが、細かな点は除き、75歳以上で独立した医療保険制度をつくるという骨格部分は間違っていないと思います。


--細かな点とは?


尾辻--低所得層への手厚い配慮の仕組みがなかった。個人的には、収入が基礎年金満額の月6万6000円までの方ぐらいを対象に、現在は7割が最大の保険料減免を、9割引きあるいは今はできない全額減免を可能にする。低所得層には、今まで以上に手厚くという考え方をとればよかったが、財源の問題で非常に難しくなってきていた。


--政府は2011年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化達成を目標にし、社会保障費は02年度から毎年2200億円も圧縮してきました。


尾辻--最初の5年は社会保障制度を見直すべき時期でもあり、計1兆1000億円が削減できた。もう無理です。乾いたタオルを絞っても水は出ない。これ以上やれば社会保障、特に医療が崩壊します。


--これまでにリハビリの保険給付が最大180日で打ち切りになったり、介護保険の要介護度認定の見直しがされてきた。医師不足や救急患者の受け入れ拒否が問題になって不安が広がっている時に、新しい制度が始まった。


尾辻--私に言わせれば、政府の経済財政諮問会議の責任は大きい。結局彼らの言うことは、日本の社会をアメリカみたいな自己責任の社会にしろということでしょう。年を取ってメシが食えなくなっても、それは若い時にちゃんとやっていなかった自分の責任だ、病気で医者にかかれなくても医療保険に入っていなかった自分の責任だと。少なくとも小泉内閣の時の経済財政諮問会議はそういう社会にしようと言っていると私は理解したし、私がそうなんだから、国民の皆さんもそうでしょう。それに対して国民が不安を持ったのではないか。


--諮問会議はアメリカ型の民間医療保険でいいと主張しているように聞こえたということか。


尾辻--そうです。それに最近のテレビのコマーシャルは、民間の医療保険ばかりです。「やはり民間の医療保険に入らないとダメだ」と言っているようにも聞こえる。


--経済財政諮問会議の議論の方向が違うと。


尾辻--プライマリーバランスの改善といっても、諮問会議は「歳出を抑える」の一辺倒。歳入を大きくする、つまり増税は念頭にない。小泉純一郎元首相は「まず歳出削減がないと、国民は増税に納得しない」と言う。必ずしも間違いではないが、過ぎると国民に痛みが伴ってくるし、特に社会保障費削減は人命にかかわる。


彼らは財政至上主義です。反論もあるでしょうが、分かりやすくいうと、カネと命のどっちを大切にするかの問題で、彼らはカネが大事だと言う。私は命が大事だと言わざるを得ない。


--75歳以上だけを独立した保険制度にするのは、非人道的だとの指摘もある。医療費増大が保険料に跳ね返るため、医療を受けることをためらう人も出るのではないか。


尾辻--75歳での線引きは、今までも老人保健制度でやってきました。75歳の線引きが非人道的だというなら、現役と一緒で自己負担は3割でいいですかと逆に質問をしたい。私は1割に抑えたいと思う。もし3割でいいなら、全然違う話です。


--75歳以上が優遇される保険医療制度なら、加入は個人の選択でもよかったのでは。


尾辻--75歳以上の特別な保険証をつくったのが間違いだったのかもしれません。年金からの保険料天引きもそうですが、最初から引かれるから腹が立つ。75歳以上の方の国民健康保険料の収納率は98%と高いのだから、天引きの必要はそうなかった。「はい75歳で、あなたは後期高齢者になりました。天引きします」とやられると……。その配慮がなかった。


--低所得の方々の負担軽減や、運用の改善で国民の批判は収まるか。


尾辻--名前も変えた方がいいでしょう。後期高齢者というネーミングはやはり感情を刺激したと思います。せめてシルバーとか。


小泉内閣時代の諮問会議を中心とする自己責任、つまり国はあまり面倒を見ないよというような印象が、「国は一生懸命国民の老後も考えてくれている」と変われば、国民の怒りも収まるのかもしれません。福田康夫首相もお気の毒です。いわば小泉政治のツケの責任を問われている。一方で、今でも小泉さんは人気で、国民には小泉さん再登板待望説もあるとか。不思議です。


--尾辻さんは、6月に出される「骨太の方針08」で2200億円削減の見直しを求めているが、見通しは。


尾辻--分かりません。私の印象ではとても楽観はできません。かりに削減が見直されても、少子高齢化の今、何の手も打たないでいればいずれ「国民皆保険はあって当然」ではなくなる。私は、今度のことは良かったと思っています。これだけ健康保険制度に国民の関心が集まって議論の機会ができたんですから。


<聞いて一言>

国民皆保険を守るためと言うが、「後期高齢者診療料」の新設など、高齢者の健康より医療費の財政負担削減を優先する仕組みが目立つ。「命の問題」なのに、郵政選挙での大勝を背景に、国民の声を十分聴かずに衆院で強行採決した結果が今の混乱だ。国民は個別の制度を評価しているのではなく、公的年金改革が迷走し、物価上昇で年金も目減りする中、介護保険料も上がる現状に怒っている。「きちんと説明すれば理解を得られる」とは思えないのだが……。


毎日新聞
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