75歳からのくらし/3 頼みは難病の長男

2008年 05月 22日 (木) | Category : 介護ニュース

◇自身も病気年金合わせ生活


洋子さん(89)=仮名=と長男のひろしさん(62)=同。病を抱えた親子が、東京都府中市の都営住宅で、年金を頼りに支え合って生きている。


「料理も買い物もやってくれるの。昔は全部お手伝いさん任せだったから、私、何にもできなくて」と洋子さん。「おふくろが、ろくな料理を作れなくて困ったよ」とひろしさんが冷やかす。


洋子さんは、静岡県の大きな酒屋に生まれた。結婚し、3人の子に恵まれた。戦後、夫は運送会社を起こし、洋子さんもこの会社で働いた。


事業は順調に見えたが、46歳のとき、取引先が倒産。洋子さん夫婦も経営が苦しくなり、会社をたたんだ。企業の社員寮に管理人として住み込んで10年余り。夫は病死し、ひろしさんの暮らすアパートに移った。


12年前、脳梗塞(こうそく)が見つかり、同時に膠原(こうげん)病と診断された。特有のだるさがあり、長時間起きていられない。1~2カ月に1回、神奈川県に住む長女の車で府中市内の病院に行き、帰りはドライブして昼食をとってくるのがわずかな楽しみだ。それ以外はほとんど家で庭の草木の手入れなどをして暮らす。


介護保険のヘルパーに月曜と木曜の週2回、掃除を頼むが、買い物と朝夕2回の食事の準備、洗濯はひろしさん任せ。朝8時ごろ起きると、ひろしさんの作った朝食ができている。豆腐とネギのみそ汁に卵焼き。夕食にパスタを作ることもある。「1人暮らしだったから上手なの。とんかつがおいしくてね」


ひろしさんには幼少のころから持病があった。体の内部や表面に腫瘍(しゅよう)やしみができる難病で、ほおにできた大きな腫瘍など、6回の切除手術をした。腫瘍が血管や神経を圧迫し、最近は右目が見えない。医師からは定期的な受診が必要とされている。だが、ひろしさんは「どうせ治らないし、国民健康保険も3割負担だから」と通院をやめている。


工場で働いていたが、昨年から母と同じ年金暮らし。2人の収入は合わせて月16万円程度だ。洋子さんは遺族年金と厚生年金合わせて約9万円、ひろしさんは厚生年金が月7万円ほど。そこから、都営住宅の家賃2万8000円や毎回1000~3000円程度の洋子さんの医療費などを捻出(ねんしゅつ)する。


4月、洋子さんが銀行口座の通帳を見ると、厚生年金の振込額がいつもより6300円減っていた。後期高齢者医療制度の保険料として天引きされた金額だ。年間で3万7800円。昨年度の国民健康保険料は概算で年2万4900円なので、1万2900円増えたことになる。「倹約しようと思ったけど、食費を切り詰めるくらいしか思いつかない」と洋子さんは言う。


ひろしさんもたまに夜、酒を飲みにでかけ帰宅が遅くなる。翌朝は起きてこないので、洋子さんは1人で朝食を済ます。そんなとき、申し訳ないと思うのか、ひろしさんは昼に2000円のすしをとってくれる。「こんなにお金使って。自分のために取っておけばいいのに」と洋子さんは困った表情になる。


2人で暮らして29年。ひろしさんの優しさが時に、母の心配を募らせる。【大和田香織】=次回は27日掲載


◇半数が子と同居


06年国民生活基礎調査によると、75歳以上で子どもと同居している人の割合は50.4%で、ほぼ2人に1人の割合だ。配偶者のいない子との同居率は全体の17.8%となる。


08年版高齢社会白書によると、高齢者が子どもと同居する割合は1980年代の7割から06年は44%に低下した。


毎日新聞
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