7兆円市場 甘い監視・・・介護大手3社 不正発覚

人手不足 都「性善説が前提」


「コムスン」「ニチイ学館」「ジャパンケアサービス」の訪問介護大手3社で、介護報酬の不正請求が相次いでいたことが、東京都の調べで明るみに出た。介護保険を巡るビジネスは、いまや7兆円市場。訪問介護の分野にも企業が次々と参入し、行政側のチェックが追いつかない実態が浮き彫りになっている。(社会部 中村剛、岩永直子、大沢帝治)


「介護保険制度は性善説に立っている。多くの業者は使命感を持ってやっているはずだが、不正が横行すれば制度を維持できなくなる」。10日、3社に対する業務改善勧告を公表した都福祉保健局の梶原秀起・指導監査部長はこう話した。


都内にある訪問介護事業所は約3000か所に上る。高齢化の進展で、事業者に支払われる介護報酬も年々増大する一方だ。そうした中で、都内の事業所数でトップ3の3社で不正請求が明るみに出たことに、「非常に深刻な問題」と危機感をあらわにした。


コムスンでは事業所の指定を申請した際、退職者やほかの事業所の職員を常勤と偽った書類を提出していたが、都は昨年末に監査に入るまで少なくとも1年半、こうした実態を見抜けなかった。


これについて、都の担当者は「書面での確認なので見過ごした。事業所の横のつながりまでは見ていない。申請書類の数も多いし、厳密なチェックは不可能だ」と弁明するが、まったく同じ部屋に事業所が二つあったケースもあった。


申請窓口の介護保険課では、昨年2月から申請時の書類に、配置される職員の直筆の署名を求めているが、事業所などの申請は毎月100件前後あり、約20人の職員でさばくのも手いっぱいなのが実情だという。


今回の事態を、国も重く受け止めている。


厚生労働省は同日午後、都道府県に対し、広域的に事業展開している訪問介護事業者について、虚偽の指定申請がなされていないか調べるよう一斉監査を指示した。中井孝之・介護保険指導室長は異例の一斉監査について、「指定時点から虚偽申請しているとは、根っこから腐っているということ。利用者、国民の信頼を失墜させることになり、見過ごせない」と話す。


そもそも介護保険の制度運営は、営利目的の民間事業者の参入が前提で、不正請求の可能性は当初から想定されていた。


不正請求などによる事業者の指定取り消しが相次いだ鹿児島県では、他県に先駆けて、2003年度に事業者に介護報酬の自己点検を求めた。報告事業者の55・5%の887事業所から、計約5億1000万円を自主返還させている。


担当者が2、3年で異動する行政では、継続的に指導を担当する専門官を置くなどの体制を整えないと、指導は難しいという指摘もある。


厚労省は04年2月、事業者からの介護報酬の請求を審査、給付する国民健康保険団体連合会(国保連)が保有するデータを、区市町村や都道府県でも分析できるシステムを導入した。事業所ごと、利用者ごとのサービス内容をチェックできるため、水増し請求や入院中の高齢者の介護保険施設への入所など、本来あり得ない請求も見抜ける。しかし、このシステムを利用しているのは、05年度時点で、全体の約45%にとどまっている。


介護保険の総費用は、07年度予算で00年度実績の2倍以上の7・4兆円に上る。65歳以上の人が支払う1号保険料も制度開始時の約1・4倍になった。厚労省は、今年度から、都道府県に給付適正化の事業計画の作成を求めるなどの対策強化に乗り出すことにしている。


459か所氷山の一角?指定取り消しや直前廃業 はびこる不正・過大受給


厚生労働省の集計によると、不正による指定取り消し処分や、指定取り消し直前に廃止届が提出されるなどした介護事業所は、介護保険制度が始まった2000年4月から昨年末までに、全国で計459か所に達している。


このうち、コムスンなどと同様、営利法人が運営する訪問介護事業所は139か所。サービス提供の水増しや無資格者による介護、虚偽の指定申請などが主な処分理由だ。


区市町村は00~05年度、介護報酬の不正受給が確認された328か所の事業所に対し、計55億2800万円の返還を指示したが、返還額は約4割にとどまる。中には事業所が破産したり、経営者が行方不明になったりして、債権が消滅してしまったケースもあった。


また、指定取り消しには至らないものの、監査で過大な受給が判明したものは、厚労省が集計を始めた02~05年度だけで計1万2499か所、総額201億4300万円に上っている。


関西学院大の大谷強教授(社会保障論)は「指定取り消し件数は氷山の一角だろう。国民が納める介護保険料が今後も上がっていく見通しの中、制度の信頼を保つためにも、自治体は不正の全廃に向け、最大限努力すべきだ」と注文する。


加えて、事業所が返還不能に陥った場合に備え、事業の種類ごとに業界で基金を作ることを提案。「基金に加入する事業所には、『マル適マーク』を与えれば、利用者も安心できる」と話している。(社会保障部 安田武晴)


読売新聞
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