財政面だけではなく、問われるべきは本質
実態 高齢化率と頻度が問題
政府・与党がこのほど決定した医療制度改革大綱には、高齢者の窓口負担引き上げや75歳以上の後期高齢者の医療保険制度新設などが明記された。医療費抑制策の最大の焦点と位置づけられる「高齢者の医療」を考える。(解説部・南 砂)
1982年成立の老人保健法は、高齢者の医療費を国民全体で負担する趣旨であり、これに基づく現行制度では、「老人医療費」は自己負担の1割以外は、各種医療保険の保険者による拠出金と税金で賄われる。今では、組合健保が集めた保険料の4割がそのために拠出されているが、対象は大半が、各組合と直接関係はない高齢者だ。現役世代の負担が過重で、制度の見直しが求められていた。
確かに高齢者の医療費は高い。70歳以上の高齢者は31兆円(2003年度)の国民医療費の約4割を占め、年間1人当たりでは、70歳未満の4倍以上の医療費を使っている。
しかし、患者1人1日当たりの年齢別医療費では、入院医療費は0~14歳、入院外医療費は45~54歳がそれぞれ最高で、高齢者は高くない。なぜなのか。
経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の1人当たり年間受診回数は加盟国中、際だって多い16回(加盟30か国平均は6回)。高齢者では40回に上る。
しかも日本は、65歳以上が総人口に占める割合(高齢化率)が過去30年で8%から20%へ、類のない速度で高齢化が進む。いわゆる終末期医療などで医療費が膨らむわけではなく、高齢者の数と受診回数が医療費を上げているのである。
矛盾 「2本立て」制度で混乱
外来の受診回数が多いのは、「3分診療のため、繰り返し受診が必要」「皆保険で受診しやすい」といった議論があるが、診療時間が医療施設の収入に結び付かない制度も背景にある。
一方、入院医療では、日本の高齢化が急で、介護サービスや施設整備が遅れ、公的支援をもっぱら医療が引き受けてきた経緯がある。介護保険の狙いの一つも、その見直しにあった。
医療の必要がなくても退院できない「社会的入院」が多く、医療が介護の役割まで担う状況が、本人の生活の質の点でも、医療費の上からも問題視された。
そこで、介護保険制度で、役割分担を図ったが、その制度に、床ずれの処置など、医療サービスの給付が組み込まれた。今度は、介護に医療が混入したわけだ。
全国に36万床ある「療養病床」は、慢性疾患などによる長期の入院療養が目的だが、「介護保険」が適用されているものが14万床もある。ここでも介護と医療が2本立てになっている。
2種の療養病床を持つ病院では、患者の状態は同じでも、「介護保険病床」ではおむつ代が保険適用、「医療保険病床」では自己負担という矛盾が生じる。
医療法人財団・石心会の石井暎禧理事長は、「2種の療養病床は経営上の理由から使い分けられているだけ。医療の必要度が高い高齢者が介護保険療養病床により多い、という矛盾が起きている」と指摘する。療養病床、特別養護老人ホーム、老人保健施設が、事実上同じ状況の高齢者を抱えている実態も問題だという。
総合的視点議論に必要
来年度は、介護報酬と医療報酬が同時改定される。報酬面から、介護と医療の役割分担を明確化する好機だ。中央社会保険医療協議会は、医療と介護の必要度を、患者ごとの病態や生活の自立度から評価する方法を導入する方針で議論をしている。
加齢の医学的研究をし、高齢者の医療を考えるのが「老年医学」である。その成果を政策に反映させるのが本来だ。医療費抑制や保険制度上の理由から、というのは本末転倒だろう。
内科医で高齢者医療に詳しい横内正利さんは、「虚弱、または要介護の高齢者の医療を『老人科、老年医学』と呼ぶのであれば、その専門的対応が必要だが、医学・医療内部にも深い議論はない。社会的には、要介護になると医療が不要になるような誤解さえ生んでいる」と現状を憂慮する。
高齢者には、病態や要介護度だけでなく、同居家族の有無や住宅事情など、生活全般を見据えた総合的支援が必要だ。専門家は、高齢者にふさわしい医療の姿を社会に示す必要があり、社会にも、在宅医療や終末期医療などを巡る丁寧な議論が求められている。
読売新聞

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