奈良・現場から 後期高齢者医療制度/上

◇75歳以上の不信増幅--収束の気配ない反発、将来の負担増も懸念


75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度が4月に始まった。次期衆院選を前に、国政の課題を考える連載「ねじれの先に 奈良・現場から」第2弾は、後期高齢者医療制度を巡る当事者の声と余波を2回にわたって追う。【高橋恵子、中村敦茂】


約4年前に夫を亡くし1人暮らしをする奈良市般若寺町、主婦、曽木千寿子さん(79)の自宅に今春、後期高齢者医療保険の仮徴収額決定通知書が届いた。


「年金天引」の文字と共に、4~9月分の保険料として6万4500円と記されていた。年額だと約13万円。これまでの国民健康保険料は年約15万円だから約2万円減った。


しかし、曽木さんは「私たちは戦中戦後、国のためにと必死で生き抜いてきた世代。それなのにまだ苦しめようとする」と年齢で線引きをする制度自体に不満を漏らす。


曽木さんは4姉妹の三女だったが、終戦前の1945年3月、父と聴覚障害者だった長姉、妹に先立たれた。空襲が激しくなる中、「万が一、2人だけが生き残ったらどうなるだろう」と将来を悲観した父が無理心中したのだ。「戦中は兵隊さんを送るので精一杯。弱い人は生きられなかった。今の制度も弱い人をいじめている気がする」


曽木さんは55歳の定年まで会社を勤め上げ、年金は年約270万円。食べるには困らないが、診療所に2回、眼科、歯科に各1回など健康を保つため1カ月にかかる医療費は約1万円。「元気だからこれで済むけれど、風邪でも引いたら、倒れたらって心配ばかり」


医療費がかさむ75歳以上だけが加入する新制度では、将来的な負担増も予想される。「年金をもらえた時は死ぬまでやっていけると思ったけれど、狂ってしまった。2年後の保険料改定でどうせ値上がりするんじゃない。もう信じられないもの。元気なうちに死んだほうがいいわね」


一方、五條市の無職の女性(78)は明らかに負担が増える。これまで会社勤めをする息子の扶養を受けていて保険料負担はなかった。新制度には、個別に加入しなければならない。経過措置で9月まで免除されるが、10月から徴収が始まる。


女性はひざや腰が悪く週2~3回リハビリに行き、内科や歯医者にも通う。近所にバスはなく、毎回片道約1000円のタクシー代がかかる。「寝たきりにならないよう、物を食べて健康でいられるよう工夫している。余計な迷惑がかからないようにと思っているのに。タクシー代を削って引きこもるしかない」


年金は年間150万円もない程度という。「介護保険を取られ、医療費も上がると言われている。高齢者から取れるだけ取って、今の政治は早く死ねと言わんばかり」と憤る。


県によると、新制度の県内加入者は約14万3500人。このうち子どもらの扶養を外れる人は2割以上の約3万2000人いる。


奈良市鶴舞東町の谷川佳宏さん(76)は、年金問題が片づかないまま保険料の年金天引きが始まったことが納得できない。昨年10月、奈良社会保険事務所に年金記録確認に出向いた。「念のため」と軽い気持ちだったが、50年以上前、東京で夜間、短大に通いながら働いていた化学会社での厚生年金記録6カ月分が宙に浮いていた。


全国で5000万件に上った記録漏れは、今年3月時点でも半数以上が未解明。谷川さんは「他にも私のような人がいるはず。天引きは性急な行政手段」と憤る。


滞納1年での保険証「取り上げ」など、新制度では他にもさまざまな論点から批判が上がり、当事者の不信を増幅させている。制度開始から約2カ月。相次いだ保険証紛失など当初の混乱は一段落したが、県内でも高齢者の反発は収束の気配を見せない。


◇後期高齢者医療制度


対象は75歳以上の全員と、一定の障害認定を受けた65~74歳の人。今まで被扶養者で保険料を払っていなかった人も、保険料を負担する。原則として年金から天引きされる。保険料は、加入者全員が負担する「均等割り」と、支払い能力に応じて決まる「所得割り」の2本立て。「均等割り」は所得によって7、5、2割の軽減がある。窓口負担は1割(現役並みに所得のある人は3割)。都道府県単位で設置する広域連合が運営主体。市町村が保険料の徴収などをする。


毎日新聞

If you enjoyed this post, please consider to leave a comment or subscribe to the feed and get future articles delivered to your feed reader.

Comments

コメントはまだありません。

コメントをどうぞ

(必須)

(必須)