認知症の高齢者は幼児に似てくる
「この仕事をしていると、人は幼児から大人になり、その後再び幼児のような状態に戻っていくのではないか、と感じます。ただし認知症の人が幼児と決定的に違うのは誇り高い点です。一にも二にも私たちには敬老精神が大切です」。宮崎市高岡町のグループホーム「たちばな」を案内してくれた長友美紀さん(54)は、老人介護の仕事を始めて10年になる。
それまでは保育士だった。子供の世界から高齢者の世界へのユニークな転身である。きっかけは高齢の父母に代わって、亡くなるまでの半年間、祖母の介護をした経験だった。その日々のかけがえのなさから「介護が自分の天職ではないか」と考えた。40歳を過ぎて福祉専門学校に1年通い、介護福祉士の資格を取った。そして、学校の実習先の一つだった現職場に就職したのだった。
「入所者の残り時間は限られています。せめてここにいる間は楽しい時間を過ごさせてあげたい。会話の意味はつながらなくても、入所者たちは泣いたり笑ったり真剣そのものです。職員の方が入所者に慰められたり、涙ぐんだりすることもあるんです」
とはいえ、認知症老人がいつも穏やかで清らかというわけではない。大便を壁に塗りつけ、人にツバを吐きかけ、叫び、引っかくなど、いら立つ入所者を落ち着かせようと努力してきた。
「対応のコツをつかむまでが大変でした。職員も人間です。耐えられずに配転を求める職員もいました。ただし職員との関係を決定的に壊すほどの暴挙はありません。『さっきはごめんね』と謝る人もいます。ここにいられなくなれば、苦しむのは自分だと本能的に分かるのでしょう。わがままで親の気を引く幼児に似ています。これは入所者が、職員を頼ってくれている証拠です。甘えは、相手がわがままを受け入れてくれるのを期待する行為ですから」
幼児は「いま、ここ」について、よく理解していないし、言葉もしゃべれない。だが学習を重ね、言葉を操れるようになる。知識を身につけて幼児は大人になっていく。しかし老いが始まると、現実との強固なつながりは再び薄れていく。それは、生まれて育ち、成熟した後に土に帰っていく、すべての生物の循環に対応している。認知症老人の幼児化は自然の流れの一部であるかのようだ。【大島透】
毎日新聞

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