いつも不安な認知症の高齢者
「ここは楽しい所ですよ。そして、とても勉強になります」。介護職員、長友美紀さん(54)の言葉は意外だった。彼女は、宮崎市高岡町の辰元グループが運営するグループホーム「たちばな」の管理者である。ここでは認知症の高齢者たちが介護職員の助けを借りて共同生活している。
認知症の高齢者には、寝たきりの高齢者よりも手のかかる側面がある。元気だから動き回る。周囲の人たちを攻撃したり、勝手にどこかへ行ってしまったりする。その介護が、どうして楽しいのだろうか--。
家族を困らせる認知症の症状は次のようなものだ。性格が変わり、突然怒り出す。「家族に財布を盗まれた」などと妄想し、近所の戸をたたいたり、夜中に叫ぶ。拾ってきたゴミで室内を一杯にする。異物を食べたり、壁に塗りつける。家族は耐えられず、泣く泣く施設に預けることになる。
この職場に7年半勤める長友さんは、こう弁護する。「認知症の人たちは不安なのです。だから落ち着きをなくし、怒りっぽくなる。安心させることで、穏やかになる。そのコツが分かれば扱いにくくはありません。根はいい人たちなのです」
では、なぜ彼らは不安なのか--。今が「いつ」で、ここが「どこ」で、自分が「誰」なのか、私たちは理解している。こうした理解の束をまとめることで、私たちは現実世界とのつながりを保つ。ただし「いま、ここ」を把握するには、見たもの、聞いたこと、自身の行動を秩序だてて記憶しておく必要がある。
ところが直前の記憶が衰えると、現実とのつながりは一気に心細くなる。今何をしていたのか、今がいつなのかがあやふやになれば、見知らぬ異国を一人さまよう気がするだろう。「いま、ここ」の把握が危うくなる中、あるはずのものがなかったり、やったことをやっていないと周囲から責められたら、どれほどのストレスだろうか。
臨床医の大井玄氏は、私たちの世界と認知症患者の世界は連続していると説いている。「われわれは皆、程度の異なる痴呆(ちほう)である」とさえ主張している(新潮新書「『痴呆老人』は何を見ているか」)。認知症とは何か、さらに探っていこう。【大島透】
毎日新聞

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