政府が「介護療養型」といわれる老人病院を6年後に廃止する方針を打ち出している。不必要な「社会的入院」が介護保険財政の悪化の原因とされるなど批判が強かったからだ。ただ、満杯状態の介護施設の中で、行き場のない高齢者の受け皿になっている現実もあり、現場には不安と戸惑いが広がっている。
きれいごとより
「特別養護老人ホーム(特養)は2、3年待ち。(在宅復帰を目指す)老人保健施設(老健)は3カ月で出される。病院しか行き場がないんですよ」。京都市内の療養型病院に父親(77)が入院する女性(50)は声を落とす。
自営業が忙しく、在宅介護は難しい。昨秋までは、老健を3カ月から半年で次々と移る「老健わたり」でしのいだ。その間に認知症がひどくなったこともあり、次の老健が見つからなくて困っている時、入院させてくれたのがいまの病院だ。
「そういう状況なら何とかしましょう、と言ってくれた医者の言葉が、どんなに有り難かったか」。以来、自宅と病院を行ったり来たりの日々が続く。「施設は足りないし、在宅サービスは家族介護が前提になっている。きれいごとより、いま困っている人がいることを、国の役人は知ってほしい」
社会的入院生む
特養、老健、療養型。この高齢者介護3施設の中で、療養型は医師の裁量が大きく、一部で「比較的融通のきく受け皿」として活用されてきた現実がある。裏を返せば、本来は入院の必要がない「社会的入院」も生んできた。厚生労働省の昨年調査は「医師による治療がほとんど必要ない人が約半数」「週1回程度の人が3割」とした。
この社会的入院は老人医療費の無料化以来(1973年)の懸案で、「無駄遣い医療」の象徴ともいわれてきた。「解消の切り札」と期待された介護保険も、急激な高齢化による施設不足で、医療費削減効果はあまりなかった。それどころか、介護保険適用の療養型は「特養や老健よりも給付費用が高いため、介護保険の赤字を拡大する要因となっている」(京都府内の自治体担当者)。
そこで厚労省は、今国会に提出中の医療制度改革法案に、介護保険適用の療養型病院(13万床)を2011年度末までに全廃する方針を盛り込んだ。医療保険適用の療養型病院(25万床)も15万床に大幅縮小し、医療の必要度の高い患者に対象を限定する。
少ない老健への転換
「介護保険の療養型病院は治療の場でもなく、生活の場でもない中途半端な施設」と京都市内の男性ケアマネジャー(41)はいう。「病院で寝かせきり、薬漬けにされて生活機能が失われてしまう高齢者もいる。行き場がないからといって病院に入れるのは正常な姿ではない。大半の要介護者に必要なのは生活を支える介護やリハビリで、療養型の廃止分を在宅介護費用に回すべきだ」
厚労省は廃止後の療養型病院について「交付金などで助成し、老健やケアハウス、有料老人ホームへの転換をすすめる」(医政局)としている。このため、暫定的に老健施設を基準緩和(1床6・4平方メートルで可)したり、4月からは小規模老健(29人以下)の新設を認めている。
だが、日本療養病床協会の3月調査では「老健などへ転換する」とした病院は1割余り。6割が「分からない」と答えるなど現場の戸惑いは強い。調整にあたる京都府の担当幹部も「厚労省が書いた計画を読んでも、現実にどうなるか見えてこない」と打ち明ける。
東京都は3月、「地域の実情を踏まえず、一律に病床削減をすすめると、必要な医療が提供されなくなる。自治体との十分な協議の場を設けるべきだ」とする要望書を厚労省に提出した。一方、日本経団連や連合は廃止実現を求めている。
一律、余りにも乱暴
京都療養病床協会長 清水紘医師
介護療養型病院の廃止は昨年末、厚生労働省が唐突に打ち出し、あっという間に法案化してしまった。現在、日本療養病床協会や医師会などと連携し、見直しを求める活動を展開している。
私が経営する療養型病院(嵯峨野病院と京都南西病院=計300床)は重度介護者が多く、医療を必要としている人が大半。在宅では無理だ。社会的入院が多い病院もあるだろうが、何もかもを一緒にしたデータを基に療養型を「悪玉」にして、急に一律廃止というのは余りに乱暴ではないか。
まず在宅介護のインフラを十分整えたうえで、医療・介護の全体の中で、慢性期の高齢者をどうみるのかという議論をするのが手順だろう。
われわれ介護療養型病院は、介護保険の円滑なスタートに協力しようと5、6年前に施設を整備し、まだ借り入れを抱えているところが多い。そのはしごを外されたうえに、下から火をつけられたようなものだ。
当然、多くは他施設に転換する余裕などない。通常の老健より狭くても認めるというが、そんな施設を利用者が選ぶだろうか。医療や介護の費用抑制ありきの非現実的な計画というほかない。
困るのは利用者や家族だ。仮に法案が成立しても、医療・介護難民が出ないよう、さまざまな形で働きかけを続けたい。
京都新聞

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