4月から実施される介護保険改正で、「夜間訪問介護サービスの充実」が在宅支援の新たな柱に位置づけられている。しかし、現状では夜間訪問を行う事業所はほとんどない。なぜ普及しないのか、課題を探った。
深夜、京都市内の住宅街。2人の女性が預かっている鍵を使い、寝静まった家のドアを開けた。「こんばんは」。声を少し抑えてあいさつし、玄関のあかりをつけた。
社会福祉法人・原谷こぶしの里(京都市北区)の夜間巡回介護だ。ホームヘルパーの中別府幸子さん(54)と川渕美枝子さん(49)が訪れたのは、80代の独居女性。パーキンソン病で寝たきりのため、夜でも排せつ介助や体位変換が必要だ。おむつを手際よく換え、温かいおしぼりでおしりをふく。
長い夜、待ちわび
女性は、夫が亡くなるまでは在宅で介護を受けていた。病気で徐々に体の機能が失われてきたが、それでも「施設には入りたくない。家で暮らしたい」と頑張り続けている。
2人のヘルパーは、介護しながら体の異変にも気を配る。体温計は必携品。高熱が出たまま、外に知らせることもできない高齢者が少なくないからだ。この女性もわずかに体が動くため、訪問するとベットから落ちていることが何度かあった。そんなとき、骨折するケースも多い。医療機関との連携も重要になる。
「おやすみなさい」「ありがとう」。30分弱の訪問を終えると、2人は次の家へ向かった。
午後10時から午前6時まで、1日10件余り。派遣範囲の北、上京、中京の3区を車で走り回る。スケジュールは分刻み。潔癖性のため、オムツでの排せつができない70代の女性は、2人が来るまでがまんしている。だから、訪問は時間厳守だ。
訪問中、ずっと話し続ける人もいる。利用者のほとんどは一人暮らし。長い夜は寂しいのだ。離れて暮らす家族が夜間訪問を頼むことも少なくない。介護だけでなく「安否確認」の意味も大きい。
夜間勤務はローテーションで週1回。「昼間よりも体はしんどいけど、『あんたらが夜中に来てくれるおかげで家にいられる』といわれるとうれしい」。車の中で、2人のベテランヘルパーは口をそろえた。
採算合わず撤退
だが、こうした夜間訪を行う事業所はほとんどない。「夜も訪問すれば家で暮らせる要介護者もいるが、そのための体制を作っても採算が合わない」と京都府南部の訪問介護事業所長は打ち明ける。「防犯や安全のため、夜に女性ヘルパーを一人で巡回させられないし、夜間の突発対応には経験も必要。人もカネもない」-。
以前、京都市内では市の委託事業として夜間訪問介護が行われており、10余りの事業所が手がけていた。しかし、5年前の介護保険施行で事業が廃止され、大半が夜間訪問から撤退した。日中に比べて夜は介護報酬が1・5倍になるが、2人分のヘルパーの人件費には到底及ばない。
一方、利用者負担も夜は1・5倍(1回約350円)になる。仮に毎晩利用すれば、それだけで月1万円余りの負担になる。
「負担が重いために夜間利用をあきらめ、施設に入る人は少なくない。ニーズは高いのに、広がらない一因」。原谷こぶしの里の木本ちさと所長は話す。「でも、切実な要望がある以上は応えるべきだと思い、週末も夜も関係なく訪問を続けている。生活は24時間。日中の訪問だけで在宅生活は支え切れない」
随時対応型新設が
こうした中、改正介護保険法は新たに夜間訪問の強化を打ち出した。従来の巡回型に加え、利用者からの電話で駆けつける随時対応型を新設する。しかし、4月のスタートを前に、京都府、滋賀県とも「現時点で事業者の申請は一件もない」(各行政担当者)状態だ。
京都市内の訪問介護事業所の責任者は「制度改正で4月から軽度者の介護報酬が切り下げられる。夜間訪問どころではない」と苦り切った表情で話す。「待機用のヘルパーや緊急電話センターの設置などに行政の助成がないと、絵に描いたモチになりかねない」
タクシー会社が参入の動きをみせる東京などの大都市圏を除き、「民間任せ」のままでは、夜間訪問は普及しそうにない。
京都新聞

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