「髪の毛、短くしますからね」。耳元で話す理容師の佐野恵美さん(55)の明るい声に、青田勇夫さん(78)=京都市南区=はうれしそうに目を細めた。ハサミの音が青田さん宅の居間に響く。
佐野さんは訪問理美容サービスを行う「ビューティヘルパー」(桂愛ライフ、京都市西京区)から派遣されている。青田さん宅には、2-3カ月に一度の割合で訪問し、勇夫さんの髪を整える。
勇夫さんは脳梗塞とパーキンソン病を患い、特にここ1年余りで手足などが急速に不自由になってきた。介護する妻の昭子さん(72)は「外出もままならなくて、散髪には困ってたんです。丸刈りも気の毒やし」。そんな時、かかりつけケアマネジャーから、訪問理美容サービスがあることを聞き、すぐ申し込んだ。
佐野さんの手際のいい作業は20分くらいで終った。長時間になると、苦痛を感じるお年寄りもいるからだ。「お父さん、男前になったで」。そばで見守っていた昭子さんが声をかけると、勇夫さんはゆっくり微笑んだ。
在宅サービス専門
「ビューティヘルパー」は全国でも数少ない訪問サービス専門で、店舗は持たない。京都や滋賀を中心に、要介護者宅だけでなく、特別養護老人ホームや病院など施設にも出向いている。勇夫さんのような在宅サービスの費用(カットとブロー、交通費別)は1回2500円だ。
きっかけは10年前。社長の臼井由和さん(57)が販売業を通し、当時先駆的に訪問理美容に取り組み始めた九州の業者と知り合い、感動したことに始まる。ただ、「開業したのはいいが、当時は何をするのか、したいのかと、なかなか認知してもらえなかった」と話す。
当時から携わってきた同社主任の美容師日置泉さん(50)は「そんな中でも、実際にサービスをすると『体が不自由になっても、きれいにしたい』『おしゃれをしたい』という思い持つお年寄りや家族が多いことを感じた」と振り返る。
口こみなどで徐々に広がり、現在は在宅と施設を合わせて月延べ5000人を超える要介護高齢者の訪問理美容を手がける。50人前後の理容師、美容師を抱えるが、大半は結婚や子育てのために店勤めを辞めた主婦だ。
勇夫さんの髪を切った佐野さんも、そんな一人。子育てなどが落ち着いた40代半ばに、「理容師資格を生かしたいと飛び込んだ」。1日に2件から5件の家を訪問する。施設に半日詰める日もある。「たくさんのお年寄りと出会え、喜んでもらえるのは楽しい」
補助出す自治体も
訪問理美容サービスを受けている京都市内の特養ホーム施設長も、「髪を染めたり、パーマをかけたりしておしゃれをすると見違えるように表情が輝いたり、『外出したい』とか前向きになるお年寄りは多いですね。カレンダーに丸をつけて、理美容の日を心待ちに人もいますよ」と話す。
ただ、一方で「所得が限られている高齢者もおられます。利用者負担への公的なサポートはないので、だれでも受けられるという訳にはいかないのです」ともいう。このため、北九州市など独自に補助金を出す自治体も増えている。
「いつまでも、その人らしく暮らせるケア」の実現へ。訪問理美容のようなサービスが、ようやく光を浴びつつある。
≪メモ≫
美容師法などでは「美容所以外の場所で美容業をしてはならない」と定めるが、「疾病その他の理由で美容所にくることができない」場合は認められる。「ビューティヘルパー」=電話0120(05)7808=のような専門店のほか、地域内で出張サービスを行う理美容店もある。
京都新聞

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