口腔ケア 食べる楽しみは生活の基本

口の中や周辺を良い状態に保つ「口腔(くう)ケア」が注目されている。食べて、話して、呼吸する。口は、その人らしく生きることすべてつながる。来春からは介護予防の一環で制度化され、遅れている意識や技術の普及が進みそうだ。


「口をすぼめて、フグみたいに、頬(ほお)を膨らませてください」「次は舌を上下左右に動かしましょう。はい、甘いものをなめるみたいに」。指導員の藤田計子さんの手本に、お年寄り30人の笑い声が響く。


身体と口の体操


京都市左京区のデイサービス(通所介護)センター「花友しらかわ」。従来の「身体の体操」に加え、昨年から昼食前に「口の体操」をしばしば取り入れている。昼食後には、歯磨きや入れ歯の手入れを欠かさない。


「年をとると唾液(だえき)が減って口内が汚れやすくなり、食べ物を飲み込む力も衰えます。こうした体操を通し、健康を保ってほしい」。体操後、おいしそうに食事をするお年寄りに目をやりながら、藤田さんは言う。


導入のきっかけは「口の健康」の重要さを説く歯科衛生士金子みどりさんの講演。金子さんは京都では先駆的に訪問歯科衛生士のグループをつくり、口腔ケアを広めてきた。


「口腔ケアというと歯を大事にすることばかり強調されてきましたが、本来は口全体の働きを高めたり、回復したりすることまで含みます。食べる楽しみを感じるのは豊かな生活の基本。口から食べられる高齢者は元気で、病気にも強い」と金子さん。


自分でできる具体的な口腔ケアは、口内の清掃をはじめ、口や舌、唾液腺、胸部の筋肉などの運動が柱となる。これにより▽できるだけ健康な歯を残し、口から食べる生活を続ける▽歯周病や(口内の雑菌が肺に入って発症する)誤嚥(えん)性肺炎などを防ぐ▽しっかり話せる口をつくる▽窒息などを防ぎ、楽な呼吸をする-などを目指す。


自分に合った歯ブラシの選び方や使い方、入れ歯の手入れなどは歯科医や歯科衛生士などのアドバイスが必要だ。


こうした「介護予防」のための口腔ケアは、改正介護保険法で来年四月から制度化される。詳細は決まっていないが、通所してもらい、専門家が指導する形が中心となるとみられる。


チームケア不可欠


金子さんは一歩踏み込んで「訪問介護・看護の場や、重度から終末期の高齢者にもしっかりした口腔ケアを」と訴える。「必要以上に刻み食やミキサー食を出したり、食べないとすぐ胃ろう(胃に穴をあけて直接食事を流し込む)を行うところがある。できるだけ自分の口で噛み、飲み込む食事を続けてもらうことが、その人らしい生活や喜びにつながる。それにはチームケア(専門家の連携)が不可欠です」


とりわけ、食べたことや食べ方さえ忘れてしまう認知(痴呆)症の人の口腔ケアには高い技術が求められる。


金子さんは、より良い口腔ケアを普及・発展させるため、歯科医師や医師、保健師、看護師、言語聴覚士、ケアマネジャー、ヘルパーらとともに「京都まちづくり口元気塾」=電話075(761)2167=を結成、講習会や勉強会を行っている。


「口腔ケアが行き届けば排せつケアも楽になる。口から食べられれば、介護する方にも、される方にも、自然と笑顔が生まれますよ」


京都新聞
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