(102)ケアの「中身」が大事
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
『
介護保険という制度はできた。介護福祉士という専門家も養成されている。でも肝心なことが抜けている。その制度と、介護の力で何をすればいいのかというケアの中身が理解されていないのだ。
オムツ交換をうまくするのが介護ではない。まず、オムツにしなくてすむ工夫をすることが介護だ。機械で風呂に入れるのが介護ではない。ふつうの浴槽に入れる条件を作り、技を身につけるのが介護なのだ。
私は何とか“介護の世界標準”を作りたいと思ってきた。『関係障害論』『痴呆論』(雲母書房)など多くの本を書いてきたのもそのためだ。題名でもわかるように、いずれも医療や介護の専門家向けの本である。
でも、今や介護は専門家だけのものではない。「介護している家族向けの本を」と依頼されて作ったのが『完全図解新しい介護』(講談社)だ。この本は、介護の本は売れないという出版界の常識を覆し、ベストセラーを続けている。韓国、台湾に続いて昨年は中国でも翻訳出版された。世界標準とまでいかなくても東アジア標準にはなりつつある。
しかし、家族向けの本を書くのは難しい。専門用語が使えないからだ。そこでイラストや図表を中心にした。それが好評らしい。一般の人向けの新聞連載となるともっと難しい。毎週締め切りもある。お陰で、私の頭髪はこの2年ですっかり薄くなった。そろそろ自分の老いという初めての体験を迎えねばならない。他人の老いにかかわってきたことが少しは役立つと思いたい。(三好春樹=「生活とリハビリ研究所」代表)
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三好さんのコラムは今回で終わります。
読売新聞