(6)施設入所で再び通う心

「重い認知症です」と診断された81歳の母親を介護している女性から相談を受けている。彼女は古い友人で、私と同年代。体力の衰えを実感させられ始めている訳で、介護生活が限界に近づいてきたという。


疲れた介護者に介護されている老人が落ち着くはずがない。老人、特に惚(ぼ)けのある老人ほど、「人に迷惑をかけているのではないか」ということには敏感で、彼女の疲労が強くなるにつれて、夜間の不眠、徘徊(はいかい)が増えているという。


周りから施設入所を勧められているのだが、彼女は断り続けている。「親を見捨てることはできない」と言うのだ。私は異論を挟む。「施設で暮らすことは親を見捨てることじゃないよ。むしろ今のようにお母さんらしさが無くなっていくことの方が見捨ててることになるのじゃないか」と。


家族は、こんなに惚けた老人を介護できるのは肉親だけだと思っているかもしれない。でも、他人である施設職員も捨てたものじゃないよ、と施設職員だった私は言いたいのだ。


たしかに、家族にしかできないことはあるが、逆に他人だからできることもある。それは「介護力」だ。これは介護職に任せればいい。家族にしかできないのは、「介護関係」だ。互いを思い合う気持ちだ。


施設入所すると距離は遠くなるが、一緒にいて気持ちが離れてしまうよりはましだ。距離を離すことで気持ちが再び通い合う、そのために老人施設はある。


彼女は迷っている。どうするにしても施設入所に後ろめたさを感じないでほしい、という私のメッセージだけは伝えたかった。(三好春樹=「生活とリハビリ研究所」代表)


読売新聞
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