「社会で解決」の心構えを
介護疲れが原因とみられる事件が県内で相次いでいる。八月だけでも、二件の殺人事件と一件の傷害致死事件が起きた。これらの事件を単に「個人的資質の問題」と片付けるだけでは何の解決にもならない。当事者を取り巻く社会的環境などを考察し、社会で解決すべき問題と位置付けながら、改善策を模索する必要がある。
寝たきり状態の妻(73)を殺害したとして、無職男(73)が逮捕された藤沢市の事件。自分も腹などをのみで刺して死のうとした。妻は二年ほど前から寝たきり状態で、週に三回、ヘルパーが来る以外は男が世話をしていたという。
横浜でも、認知症の父親(72)を殺害した容疑で無職男(35)が逮捕された。さらに、会社員の男(57)は寝たきりの弟(55)に暴行を加え、死亡させたとして傷害致死容疑で逮捕されている。
三件とも介護の負担をほとんど一人で抱え込んで孤立していたとみられる。介護のストレスから視野狭(きょう)窄(さく)状態に陥り、正常な判断力を失った結果、暴力や心中に走ってしまったのではないか。
周囲の人たちや行政関係者が異変の前ぶれを察知して適切な措置を取っていれば、惨事は防げたかもしれない。そのためにも高齢者虐待の実態把握は大切である。
県保健福祉事務所への二〇〇五年度の高齢者虐待に関する相談件数は前年度の一・三倍に上っている。四月から高齢者虐待防止法が施行され、六十五歳以上の高齢者への虐待に気付いた人は市町村への通報を努力義務とした。特に、生命や身体に危険がある場合は通報が義務付けられている。
相談件数の増加は、同法の施行などにより高齢者虐待への関心が高まっていることも一因だろうが、「データは氷山の一角」と指摘する福祉関係者もいる。
市町村は事態が深刻な場合には立ち入り調査することができ、被害者の一時保護などの措置を取る。しかし、藤沢のケースでは事件の三日前にケアマネジャーらが相談に訪れたが、話し合いはまとまらなかったという。
近所同士の付き合いが薄く、お互いに干渉し合うのを避けようとする傾向が強い都市部では、地域で支え合うのは難しいかもしれない。行政が事態をしっかり把握して、強い態度で適切な対応を取るべきではないか。
憲法一三条は「生命、自由および幸福追求の権利」を定めている。要介護者の「生きる権利」、主として「身体の自由その他身体的活動」が脅かされるような状態は、基本的人権が侵されていることにほかならない。
だからといって、単に介護者を責めるのではなく、その人の立場になって考えるという姿勢が欠かせない。周囲の人を含め、一緒に孤立から抜け出す道を探していくことが求められている。
神奈川新聞

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