介護の密室でヘルパーのセクハラ被害(1)

(1)一人で抱え絶望感も


ぎらぎらした目を思い出すと、身震いが起きる。在宅介護のホームヘルパーとして派遣された先の男性の表情は、土田美子さん(64)=仮名=の脳裏に、嫌悪感とともに刻み込まれた。


数年前までヘルパーを務めた。体を触られ、ひわいな言葉を掛けられ、仲間は一部の男性利用者のセクハラに悩んだ。それでも自分は「セクハラへの対応は得意」なはずだった。


ある一人暮らしの男性は、部屋中に無修正の女性のヌード写真を張っていた。一瞬たじろいだ。が、「すごいですね。どこで手に入れたんですか」と声を掛けた。


「ヘルパーさんが食べたい」。別の一人暮らしの男性は、夕食の希望を聞くと真顔で言った。焦ったが、「歯が立つわけないでしょう」と明るい声で冗談っぽく切り返した。その後二年間、男性を真後ろに立たせないよう常に注意しながら介護を続けた。


「派遣先で一対一になると、自分の彼女と勘違いする人もいる。すきを見せず、敬語を使って立場を鮮明にするよう心掛け、しのいだ」


「ぎらぎらした目」の男性宅には、臨時で派遣された。七十代後半で車いす。セクハラなど、問題はそれまでないようだった。男性は家族と同居していたが、独自の出入り口がある居室には、家族の目は届かなかった。


洗面器で男性の足を洗った後、お茶を飲んでいたときのこと。男性は突然、テーブルをはさんだ土田さんの横に車いすで近寄った。あまりに機敏な動きに驚いた。目をむいた男性は、土田さんの下半身に手を伸ばし、露骨に性行為を求めた。


気分が悪くなったが、「ヘルパーはそういう要求には応えない」と告げた。なぜそんなことを言うのか問いただした。男性は「二人が黙っていればほかの人には分からない」と乱暴に言い放つのみだった。


土田さんは、早く帰りたいと思いながらも夕食を準備した。「できましたよ」。呼び掛けたが、男性は寝室から出てこない。仕方なく、そのまま帰ることにした。


出口は男性のベッドの横にあった。帰り際、その姿にぎょっとした。全裸で寝ていた男性は、通りかかった土田さんに、さらに性行為を求める言葉を連ねた。土田さんは吐き気を感じ、男性から視線をそらし介護の現場を後にした。


それまで、「多少の」セクハラは胸に納めていた。このときは派遣元の事務所へ報告した。スタッフの反応に二度目のショックを受けた。「あなただからかも。これまでは”肝っ玉母さん”みたいな人ばかりだったから」。その日、味わった屈辱には、あまりに軽い言葉だった。「すべて一人で受け止めるしかないのか」。絶望感さえ感じた。


派遣先でセクハラ被害に遭う介護ホームヘルパーが、後を絶たない。利用者への配慮から、表面化しにくく、社会問題として認知されていない。「高齢者の性」にもかかわる問題だ。二〇〇六年の介護保険制度改正は、地域密着型の介護サービスを整備する内容で、ヘルパー需要の増加が予想される。介護現場の実情を追った。


神奈川新聞
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