(4)現状に応じた教育を
「ホームヘルパーになる前は、セクハラ問題なんて思いもしなかった」。派遣先で嫌な目に遭ったヘルパーの多くがこう話す。猫田達子さん(55)=仮名=もそうだった。
六十代の独身男性の家に派遣された。男性は、掃除をする後ろを付いて歩き、猫田さん夫婦の性生活を聞いた。「他のヘルパーみたいに胸を触らせろ」とまで言われた。仲間から「セクハラ要注意」とは聞かされていたが、密室の苦痛は大きかった。
「これだろう」。ある日、男性は住所と電話番号を示した。猫田さんの自宅だった。「珍しい名前なので、電話帳で探したのか。ぞっとした」。たまらず事務所に報告すると、「ちくったな」と男性から電話がかかり、契約が打ち切られた。
思い出すのも嫌な体験。「仲間との情報交換もなく、セクハラへの対処法も分からなかった。知っていたら、少し気持ちが違ったかもしれない」と猫田さんは当時を振り返る。
ヘルパーになるには、ホームヘルパー二級以上の資格が必要だ。しかし、資格の取得に際して、セクハラ事例学習や対処法は盛り込まれていない。内容の不備を指摘する声もある。
在宅介護で直面する高齢者の性を研究する田園調布学園大教授で日本老年行動科学会副会長の荒木乳根子さんは、「被害を予測せず、現場で体験してから不安や恐怖感が先立つようになるのは、まずい」と懸念する。
荒木さんは、普段から学生に「誰でも性欲を持つのは自然だが、その表出には制約がある。それが分かっていて踏み越えてしまった高齢者の心や背景に、思いをはせる必要がある」と呼び掛けている。
教え子の女子学生は、ある高齢者の福祉施設での実習で入所男性に胸を触られた。だがその後も男性と明るく接し、野球の話で盛り上がるまでになった。実習の最後、男性は「悪かった」と涙を流し別れを惜しんだ。
「高齢者の孤独な心や性への理解で状態が改善することもある。嫌なことは拒絶すべきだが、行為に走る背景に向き合うことも必要だ」。荒木さんはそう話す。
「ヘルパーは人権侵害を受ける可能性がある職業であることを、もっと伝えなければ」。ヘルパーへのセクハラ被害を研究する八戸大講師の篠崎良勝さんは指摘する。
被害に遭って初めて「高齢者の性」を意識させられるヘルパーたち。篠崎さんはあまりに無防備と感じる。「このままでは被害を受けても我慢すればよいと、自己犠牲的な奉仕精神を求めることになる。性的嫌がらせを起こす要因や利用者の思いの理解、対応を学ぶ教育が理想だ」。現在のヘルパー教育に警鐘を鳴らす。
神奈川新聞

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