◇金銭、介護に苦しみ孤立
寝たきりだった筑西市蓮沼の無職、横田安雄さん(当時77歳)に懇願されて横田さんを殺害したとして、嘱託殺人罪に問われた妻のチヨ被告(77)の初公判が14日、水戸地裁(小野裕信裁判官)であり、チヨ被告は「間違いないです」と起訴事実を認めた。検察側は「逃げ出したいという自分勝手な動機で犯行に及んだ。介護を続ける人に及ぼす社会的影響は大きい」として懲役3年を求刑した。
検察側の冒頭陳述によると、約1年前から寝たきりだった安雄さんは2月23日未明、チヨ被告に「痛くなるばっかりだから殺してくれよ」と懇願。チヨ被告は翌24日午前1時半ごろ「夫を殺して自分も死のう」と、自宅の寝室で眠っていた安雄さんの首を柳刃包丁で刺して窒息死させ、自分の首を刺し軽傷を負った。
弁護側は「75歳から日夜過酷な介護から逃れることができなかった。献身的な介護で疲れ切った中で『殺してくれ』と嘱託され、やむにやまれなかった」と、執行猶予付きの寛大な判決を求めた。【山崎理絵】
77歳の女性は、半世紀以上連れ添った夫になぜ手をかけなければならなかったのか。検察側冒頭陳述からは金銭面と介護の負担の両面から苦しみ、孤立した様子がみえる。
1955年に結婚した夫婦は、農業を営む長男、孫と4人暮らし。夫婦の月収は計8万5000円の年金と長男の援助を合わせた計12万5000円。ビニールハウスの光熱費4~5万円とヘルパーの費用約3万円、それに食費を入れれば、ほとんど残りはなかった。香典など地域との付き合いもかさみ、国民健康保険の支払いが約1年間滞っていた。チヨ被告は被告人質問に「親類に援助を頼んだこともあったが断られた」と話した。
安雄さんは10年前に農作業で腰を痛め、昨年からは介護用ベッドで寝たきりになり、最も重い要介護度5と認定された。ヘルパーが平日1時間訪ね、長男も介護を手伝ったが、食事の世話とおむつ替えはチヨ被告がほぼ1人でしていた。
床ずれを痛がり、「(列車に)飛び込んで死にたい」と漏らす安雄さんを励ましていたが、チヨ被告自身が昨年秋に左ひざを痛め、「寒い夜がつらかった」という。
初公判の14日、法廷に車椅子に乗って現れたチヨ被告の首にはまだ傷跡が残り、声もかすれ気味だった。【山内真弓、山崎理絵】
◇「自治体の力、不可欠」
安梅勅江(あんめときえ)筑波大教授(発達保健学)は「家族だけで抱え込んで思い詰めることがないような環境作りには自治体の力が不可欠」と指摘。その上で、行政がNPO(非営利組織)と連携しながら介護世帯を地域全体で支える仕組みを作る必要性を説く。また、安梅教授は「かつてどの町にもあった自治会組織は義務感が嫌われて弱体化した。改めてコミュニティーが持つ力を見直すべきだ」と提言する。
一方、介護問題に取り組む水戸市のNPO法人「いばらき介護福祉の会」副理事長で、ケアマネジャーの能本守康さん(44)は、再発防止には介護専門職の存在が不可欠とする。能本さんは「地方では世間体から他人を家に入れることに抵抗がある人が多く、家族で抱えてしまうケースが多い」と在宅介護を取り巻く課題を挙げ「積極的にアドバイスできる専門職は身近にいたのだろうか。専門職との接点を作り、何でも相談できる信頼関係を築くことが重要だ」と話した。【八田浩輔】
毎日新聞タグ: 介護殺人
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