ルポ介護の現場 制度改革半年の実情(5)

2006年 10月 18日 (水) | Category : 千葉県の介護ニュース

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

(5)「権利擁護」へ機動的対処


仏壇の前には焦げた食パンと腐ってヨーグルト状になった牛乳、服は着たきり、壁に大きな焼けこげ――。


昨春、船橋市内の在宅介護支援センターからケアプラン作成の依頼を受け、市内に一人で住む文枝さん(仮名、73歳)の自宅を訪問したケアマネジャーの和子さん(仮名、52歳)は、そのすさんだ生活ぶりを目の当たりにして言葉を失った。


「要介護1」で認知症がある文枝さんは、他人に対する警戒感が強いことから、1日30分の訪問介護サービスを受けるのがやっと。しかし、本人に判断力がないためサービスを増やしたり施設に入所させたりといったこともできず、また金銭管理などを代行する社会福祉協議会の権利擁護事業の利用も要件が合わずに断念。困った和子さんを助けたのは、今年4月に地元にできた市の「南部地域包括支援センター」(高階秀子所長)だった。


センターは、遠方に住む文枝さんの実の姉に連絡し、成年後見制度の利用について了解を得た。今は司法書士に手続きを代行してもらっており、完了すれば、小規模多機能サービスかグループホームの利用を検討する。和子さんは「成年後見人がつくことになって本当によかった。悪質な訪問販売などにだまされたりしないかと気が気ではなかった」と胸をなで下ろす。


「地域包括支援センター」は、制度改革で新設された組織で、予防給付のプラン作りや高齢者虐待防止などを担当する。船橋市のセンターは市直営5か所。高階所長は「権利擁護や虐待防止がセンターの役割として位置づけられ、機動的に動けるようになった」と話す。


しかし、県内56自治体のうち22では、センターそのものが未設置である上、設置されていても船橋のように機能しているセンターはまだまだ少ないのが現状。県内のある地域包括支援センター長の「仕事の75%ほどは予防プランの作成。今後もっと増えるでしょう」との声からもうかがえるように、センターが最も時間を取られるのは要支援1、2の人向けの介護予防プラン作りとなっている。せっかくの組織が“予防プランセンター”になってしまう恐れが強いというのだ。


予防プランは、原則として包括支援センターが作るが、民間のケアマネジャーに委託することもできる。しかし、このセンターの場合、最近はケアマネジャーから「もうできません」と断られることが大半だ。


ケアマネジャーが要介護1~5の人のケアプランを作成して、保険から受け取る報酬は1件あたり月1万~1万3000円程度。これに対し、要支援者の予防プランは、手間は要介護者のものとそう変わらないが、報酬は同4000円ほどに過ぎない。ケアマネジャー1人が作成できるプラン件数には上限が設けられているため、報酬が低い予防プランは敬遠されることになる。


今、センター長が担当している予防プランは30件ほど。今後さらに増える予防給付の対象者は、担当件数の制限がないセンターが担うしかない。


「求められているセンターの業務と、目の前の仕事にギャップがある。どうすればいいか行政と一緒に考え、地域の人たちから『相談してよかった』と言われるセンターを目指したい」。センター長は、そう願っている。(おわり)(この連載は針原陽子が担当しました)


■地域包括支援センター■ 制度改革で、原則として今年4月から各市町村が設置することになった組織。設置には2年間の経過措置がある。保健師と社会福祉士、主任ケアマネジャーの3職種が配置され、要支援者のプラン作成やケアマネジャーの支援、高齢者の権利擁護や虐待防止などを担当。自治体が設置することになっているが、社会福祉法人などに委託することもできる。


読売新聞
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