(39)遺族年金 内縁の妻に
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
モミジさん(仮名、以下同じ)は、20年前に別居して、今年70歳で亡くなった夫のクリオさんの遺族年金を受け取ることができなかった。受け取ったのは、コギクさん(66歳)だ。コギクさんがクリオさんと一緒に暮らし始めたのは、約15年前。山歩きの会で知り合った。当時、クリオさんは、「妻に家を出て行かれた」と寂しそうだった。妻への暴力が原因だったが、コギクさんがクリオさんの賃貸アパートで夫婦同然に暮らし始めてからは、そうしたことはなかった。
かつてコギクさんは、妻に生活費を送っているのかと尋ねたことがある。クリオさんは「ほうっておけばよい」と言っていた。「奥さんと離婚する気はないの」と聞いた際には、答えはなかった。コギクさんはやはり妻のことが忘れられないのだと感じ、正式に結婚しなくても、今のままでよいと自分を納得させた。
クリオさんは65歳のとき病に倒れ、自宅で闘病生活を続けた。妻への死亡通知はコギクさんが行った。
クリオさんの死後、国民年金しかないコギクさんは今後の生活を考えて途方にくれた。クリオさんの預金を相続できないかと弁護士に相談したところ、遺言がないので遺産はすべて相続人である妻子が相続すると言われた。だが、遺族年金は重婚的であっても内縁状態の妻も受け取れる可能性があると教えられた。
弁護士は、15年間にわたり夫婦同然の生活をしてきたこと、内縁の夫の収入で生計を維持してきたこと、また、最後の5年間、内縁の夫を介護したことが評価されるはずだと言った。
正妻と内縁の妻の両方から遺族年金が請求されたが、社会保険事務所の裁定で、年金はコギクさんが受け取れることになった。コギクさんは介護の苦労が報われてうれしかった。(中山 二基子、弁護士)
読売新聞』
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