(37)夫の息子から遺留分請求

2006年 10月 18日 (水) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

クルミさん(仮名、72歳)が、今年80歳で亡くなったイワオさん(同)と一緒に暮らし始めたのは20年前の春だ。二人とも配偶者を亡くしており、イワオさんには一人息子が、クルミさんには娘が二人いた。子どもたちに再婚の相談をしたところ、イワオさんの息子に反対された。最後は、「入籍しないなら構わない」と言われ、結局、婚姻届を出さないまま、内縁の夫婦として暮らしてきた。


昨年、イワオさんは大病を患い、クルミさんの将来を心配するようになった。何年一緒に暮らしても内縁の妻には相続権がないことを知ったイワオさんは、「僕の財産は住んでいるこのマンションだけだが、これはお前に残すよ」といって遺言を書いてくれた。今年、イワオさんが亡くなり、遺言のおかげでマンションはクルミさんの名義になった。しかし、それでは済まなかった。息子が遺留分を請求してきたからだ。


子・配偶者・親など兄弟姉妹以外の相続人には、遺言があっても遺産の一定割合を取り戻せる遺留分がある。子どもの遺留分はその相続分の2分の1だ。遺留分の請求は、遺言を知ってから1年以内にする必要がある。


クルミさんは、マンションの名義の2分の1を息子にしなければならないのかと心配したが、弁護士に相談したところ、マンションの時価の2分の1相当をお金で払って解決する方法があることを教えられた。早速、マンションの時価を調べたところ、築30年のマンションは現在、1200万円になっていた。半分の600万円なら何とか自分の預金から払える。


息子と話し合ったところ、息子も、父親が世話になったから500万円でよいと言ってくれた。ついのすみかを確保できたクルミさんは、心底ホッとした。(中山 二基子、弁護士)


読売新聞
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