(34)後見人、手術に同意できず

2006年 09月 06日 (水) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

弁護士会の法律相談に78歳の女性が訪れた。81歳になる夫に対し、後見の申し立てをしたいという。ところが話を聞いてみると、女性が抱えている問題は、後見人を選んだとしても解決できる問題ではなかった。


夫は長年、糖尿病を患っていた。最近、病状が悪化し、主治医から右足の切断を告げられた。ところが本人は絶対に嫌だと言い張り、主治医や妻の説得を聞こうとしない。困り果てた妻が娘に相談したところ、娘から、「お父さんは認知症が出て自分の病状をよく理解できないから嫌だと言っているのよ。後見人が選ばれれば、お父さんに代わって手術の同意をしてくれるのではないの」と言われ、相談に来たのだ。


弁護士が夫の状態を聞いてみると、判断能力の低下はあるようだが、後見人選任を必要とするほど低下しているかどうかはわからない。弁護士は念のため、後見申し立て用の診断書をとるよう助言した。


ところで、夫に後見人が選ばれたとしても、後見人には足を切断するという医療行為について同意する・しないの権限はない。あくまで本人を説得し、本人が納得して手術を受けるしかない。


本人が、説明しても全く理解できないほどの重度の認知症や意識不明の場合、身近な親族が本人の気持ちを推測しながら医療の同意をしているのが現実である。しかし、本人に身寄りがない場合、後見人が同意を求められて悩むことは少なくない。また、親族がいても、疎遠な場合は、果たして適切な判断ができるかどうかも疑問だ。


医療行為についての本人の判断能力がない場合、誰が、どんな手続きで同意するのかを法的に整備しておく必要がある。法制度の不備のために本人の治療が遅れるようでは困るからだ。(中山 二基子、弁護士)


読売新聞
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