(25)必要最低限の遺言自筆で

2006年 05月 10日 (水) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

若葉さん夫妻(ともに70歳、仮名)は、どんな遺言を作るかを弁護士に相談している。


弁護士「自分が先に亡くなったときと、夫婦同時に死亡したときの遺言の話をしました。同時死亡の場合は、夫婦それぞれが、自分の遺産をどこに贈るかを決めて遺言に書きます。どこか遺贈したいところはありますか」


夫「私は両親をがんで亡くしているので、遺産はがんの研究に役立てたいと思っています。財産といっても自宅の土地建物と少々の預金ですが、これをお金に換えて使ってもらいます」


妻「私は預金が少しあるくらいですが、目の不自由な人のための朗読ボランティアをしているので、その活動に使って欲しいわ」


弁護士「わかりました。遺贈先の具体的な団体はこれから考えて決めましょう」


夫「家内は元気なので、多分私よりも長生きすると思います。そのときの遺言についてアドバイスしてやってください」


弁護士「妻が後に残ると、『全財産を妻に相続させる』という夫の遺言で、夫の財産は妻のものになっています。従って、その場合に妻が書く遺言については、妻だけでなく夫の気持ちも反映される遺言がよいと思います。夫が後に残った場合も同じです」


夫妻「本当ですね。よく考えてみます」


弁護士「ところで、満足のいく遺言を作るには時間がかかります。それまでに何かあったら困りますから、最低限必要な遺言を自筆で書いておきませんか。自分が亡くなったら配偶者に全財産を相続させる、という遺言です」


夫妻「確かにそうしておけば安心ですね。今晩、二人で遺言を書きます」(この相談の続きは次回に掲載します)(中山 二基子、弁護士)


読売新聞
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