(22)手軽だが、難しい自筆遺言
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
自筆証書遺言は文字通り、自筆で書く遺言だ。署名だけでなく、本文も日付も全部自分で書き、押印する必要がある。いつでもどこでも、どんな紙にでも書けるし、何度でも書き直せる。費用もかからないし、秘密にしておける。手軽に作れるのが長所だが、書き方によっては無効になることがあるので注意が必要だ。
その1。パソコン、ワープロなどで作成した遺言は無効である。本文をパソコンで書き、署名を自筆でしたものも無効である。
その2。「平成18年3月吉日」という日付の遺言は無効である。内容の抵触する遺言が何通かあると日付の新しい遺言が効力を持つので、日付は必ず特定する必要がある。「平成18年の誕生日」という日付の遺言は有効だ。
その3。間違ったときの訂正は特別の方式が必要なので、訂正ではなく全文を書き直す方が安心だ。
その4。書き方によっては望んだ効力が生じないことがある。ある父親は、介護してくれた娘に自宅の土地建物をあげると常々、話していたが、自筆証書遺言を開けてみると「家をゆずる」と書いてあった。これでは娘が遺言で相続できるのは建物だけで、土地は相続人全員の遺産分割協議が必要だ。一度、弁護士などの専門家に内容を見てもらってから書く方が安心だ。
その5。自筆証書遺言は毀損(きそん)や改ざん、紛失、未発見の恐れがないとはいえないし、保管も難しい。その遺言で最も利益を得る人に預けておくのも一法だ。
このように考えると、あまり複雑な遺言を自筆で書くことはお勧めできない。まず最低限必要な遺言を自筆で書き、その後じっくり準備して、公正証書遺言を作成するのが良いと思う。(中山 二基子、弁護士)
読売新聞』
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