(17)別居の夫に生活費請求

2006年 01月 10日 (火) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

杏さん(仮名、61歳)は夫(63歳)が定年を迎えた翌日、「離婚したい」と伝えた。夫からは、「気でも狂ったのか」と一笑に付された。「離婚してくれないなら別居します」と言うと、「勝手に家を出る者に生活費はやらない」と言われた。夫は収入のない杏さんが、別居などできるわけがないと考えていたのだ。


もちろん、家を出ることに不安はあったが、横暴な夫とはもうこれ以上、一緒に暮らしたくなかった。別居したとき、杏さんには何とか2年ぐらい暮らせるほどのヘソクリがあった。だが、病気でもしたらと不安だった。子どもは二人とも結婚しており、迷惑をかけたくなかったからだ。


杏さんは、離婚の相談をした弁護士から、「夫は年金収入がありますから、離婚するまでは夫に婚姻費用(生活費)を請求できますよ」と教えられた。夫婦である以上、離婚までは、夫は妻を扶養する義務がある。しかも、夫が受けとっている年金は、妻の長年の内助の功があって得られたものだ。


婚姻費用の分担が夫婦の話し合いで決まらないときは、家庭裁判所の調停で決めることができる。調停でも決まらないときは、家庭裁判所裁判官による審判で決められる。


杏さんは家庭裁判所に、「婚姻費用分担の調停」を申し立てた。夫の年金は月額約23万円で、杏さんはまだ年金を受け取っていない。


夫は調停でも最初は支払いを拒んだが、調停委員から扶養義務や年金分割の考え方を説明され、結局、月額10万円払うことになった。杏さんは落ち着いたら仕事を探して、アパート代くらいは自分で稼ぎたいと考えている。(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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