(12)後見人2人で守る親の財産

2005年 10月 17日 (月) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

ムギさん(仮名、82歳)は、5年前に夫を亡くした後、一人で自宅で暮らしている。シッカリ者で有名だが、最近、立て続けに財布の置き場所を忘れたり、預金通帳をなくしたりした。その都度、長女が来て、一緒に探し、通帳の再発行手続きもとってくれる。


ムギさんは、「近くに娘がいてよかった」と思ったが、長男、二男は、長女が母親の財産にかかわるのを快く思っていないようだ。


「母さん、預金は大丈夫か。姉さんに渡さない方がいいよ」などと電話してくる。ムギさんは、「今からこれでは、将来、私に認知症(痴呆(ちほう))が出たら、きょうだいでケンカになるかも知れない」と不安になった。長女もこれ以上、母親の財産にはかかわりたくないようだ。では、母親の判断能力が低下したら、どうしたらよいのか。


ムギさんが長女と一緒に弁護士会に相談に行ったところ、「任意後見制度」を使って弁護士などの専門家に財産管理を頼む方法があることを教えられた。財産管理は弁護士に、介護や生活のことは長女に、というように、後見人を2人決めて任意後見契約を結ぶことができることも分かった。


ムギさんは、長男、二男、長女を呼んで、将来、判断能力が低下したときには、任意後見制度を使って、財産管理は弁護士に、療養看護は長女に頼みたいと話した。長男も二男も、療養看護を長女がすることについては、感謝こそすれ、異存はない。長女は報酬はなしで引き受けることにした。


親が存命中から、親の財産をめぐって子どもたちがケンカする例は少なくない。そのようなトラブルを避けるためには、親子が話し合って、任意後見制度で備えておくのも一法だ。(中山 二基子、弁護士)


読売新聞
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