(9)二世帯住宅 相続考えて
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
松木さん(仮名、55歳)は、「あの時、反対してくれてありがとう」と、心の中で妹の1人に手を合わせた。
3年前に両親を引き取る時、実家を二世帯住宅に建て替えようとしたら、妹が大反対。「お父さんの土地を独り占めにするつもりなの」と言われ、腹を立てて中止した。仕方なく二世帯用の貸家を探したら、空き家になっている二世帯住宅が多いのに驚いた。おかげですぐに見つかった。
同居して2年後に母親が亡くなり、その半年後に父親も後を追うように亡くなった。相続人は松木さんと妹2人の計3人である。
父親が遺言を残していないので、遺産は法定相続分通り、3等分することになった。めぼしい遺産は土地だけだった。
妹は、「土地がいるなら、私の取り分をお金でくれてもいいわよ」と言ったが、そんなお金はないので3人で相続し、売って分けることにした。売れた時に分ければよいので気楽である。もし、父親名義の土地に二世帯住宅を建てていたら大変だった。妹たちの相続分をどのように用意して払うのか。売るにしても、3年たつと家はかなり値下がりするが、ローンはほとんど減っていない。土地の売却分を3等分したら、松木さんの取り分にはローンが大幅に食い込んでしまう。
二世帯住宅を建てて子供の世話になるなら、介護で苦労をかける子供に、相続で苦労をさせてはならない。相続の時、家を売らないで解決できるかどうかを考えてから、建設に踏み切るのが賢明だ。
もちろん、親は遺言を書いておく必要がある。遺留分があるから、遺言ですべてを解決できるわけではないが、解決が楽になることだけは確かである。(中山二基子、弁護士)
読売新聞』
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