(7)遺産分割でも役割

2005年 07月 19日 (火) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

マツさん(仮名、74歳)は最近、やっと眠れるようになった。昨年、75歳で亡くなった夫の遺産分割が解決する見通しが出てきたからだ。


夫は5人きょうだいの末っ子で、上に姉が4人いる。マツさんには子供がなく、夫に遺言を書くよう頼んでいたが、夫は、「そのうち書くよ」と言ったまま亡くなってしまった。法定相続分はマツさんが4分の3、夫の姉たちが4分の1だ。


マツさんは夫の死後、体調が思わしくなく、自宅を売って介護付きホームに入りたいと思っている。だが遺産分割が済まなければ夫名義の家を処分できない。


義姉たちに遺産分割の話し合いをしたいと手紙を出したが、85歳の長姉からは返事がない。長姉の子供を捜し出して連絡を取ると、「母は一人暮らしですが、認知症(痴呆(ちほう))が出ているので、遺産分割のような難しいことはわからないと思います」と言う。これでは協議ができない。困ったマツさんが弁護士に相談に行ったところ、長姉には成年後見人を付けて遺産分割をする必要があると教えられた。しかし、長姉の子供たちに後見の申し立てを頼むと、「そんな面倒なことはできない」と断られた。


ところが最近、認知症高齢者の住宅リフォーム被害が相次ぎ、成年後見制度の重要性が知られるようになってきた。義姉の子供も成年後見制度の利用を周囲に勧められ、申し立てをすることになった。


相続人がきょうだいの場合、相続人も高齢で認知症になっていることが少なくない。その場合は成年後見人が相続人に代わって遺産分割協議を行う。成年後見制度が必要なのは、悪質商法の被害を防ぐためだけではないのである。(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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