(5)預金通帳の預け先

2005年 06月 20日 (月) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

サクラさん(70歳。仮名は以下、同じ)方に、同年代の友達が集まってお茶を飲んでいた。話題はいつしか、「どうしたら息子に預金通帳を渡さないで済むか」という話に。


キク「長男が、年寄りが通帳を持っていると危ないから、預かってやると言うのよ」

ウメ「お金に困っているのではないの」

キク「そういえば、去年、家を買ったから、ローンの支払いが大変だと言っていたわ」

ウメ「何か危ないわね」

キク「どうしたら息子を怒らせないで、上手に断れるかしら。ケンカをしたくないのよ。息子は本当は優しい子なの」

サクラ「預かってもらえば安心ではないの。物騒な世の中だから」

キク「だめよ。今は別居しているから息子夫婦ともうまくいっているけど、お嫁さんに下の世話は頼めないわ。いざという時には息子の世話にならないで、介護付きのホームに入るつもり。その時、お金を持っていないと困るでしょ」

サクラ「あなた、息子がいるのによく決心したわね。私にはできないわ」

ウメ「実は私もこの間、息子から通帳を預かるよと言われたの。うっかりテーブルの上に通帳を出していたら、見られたの」

キク「それでどうしたの」

ウメ「社会福祉協議会に相談に行ったら、通帳や印鑑を預かってくれるサービスがあることがわかったの。預金をおろして届けてくれるサービスもあるんだって」

キク「知らなかったわ」

ウメ「『地域福祉権利擁護事業』というらしいけど、息子には、あんたに預けるより、そっちの方が安心だと言ってやったわ」

サクラ「私たちもこれからは、いろいろ勉強しなければいけないわね」

一同「本当ね」(中山二基子、弁護士)


読売新聞
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