(1)認知症になったら・・・財産守れますか

2005年 04月 04日 (月) | Category : 転ばぬ先に

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

子供のいない椿さん夫婦(72歳と70歳、仮名)は定年まで共働きをし、年金も、ローンを払い終わった自宅もある。旅行や趣味のダンスを楽しみ、後は健康にさえ気をつければ老後は安泰と思っていた。


ところが妻は70歳になる直前に認知症(痴呆(ちほう))となった。そこで妻のために有料老人ホームを探し、契約することにした。


入居金を払うのに妻の預金通帳をもって銀行に出向いたところ、「奥様は?」「家内はアルツハイマー病で字が書けません」「それでは奥様の預金は下ろせません。後見人を付けてからにしてください」と言われてしまった。「夫が妻の預金を下ろせないなんて」と憤慨したものの、どうしようもない。


ふと、「もし、自分が認知症になったら、だれが老人ホームを見つけてくれるのか。だれが年金を下ろし、ホームの費用を払ってくれるのか」と考えてがく然とした。だれもいないのである。


椿さんは、老後の備えは万全と思っていたが、自分たちで考えていた「老いじたく」では足りなかった。足りなかったのは、判断能力が低下し、自分で財産管理や介護の手配ができなくなった時への備えである。


そのためにあるのが、2000年4月に始まった「成年後見制度」だ。判断能力が不十分な成人のために、後見人が財産管理や介護の手配をして、その人が自分らしく生きるのを援助する制度だ。椿さんは地元の弁護士会を訪れ、勉強を始めた。定年後に始めておけばよかったが今なら間に合う。(中山 二基子、弁護士)


読売新聞
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