東大とNPO「共想法」で認知症予防

2008年 09月 24日 (水) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

写真で記憶を呼び覚ます


東京大の大武美保子准教授(サービス工学)は、千葉県柏市で認知症予防に取り組んでいる。平均年齢70歳の市民研究員14人と、NPO「ほのぼの研究所」を今年7月に設立。大武さんが開発した「共想法」という手法を使って、認知症予防の研究と、普及を行う。


「受付は込んでいて盛況でしたね」「案内用の矢印が工夫され、分かりやすかった」。地域交流センターに集まった研究員たちが、NPO設立の記念集会の写真を見ながら発表を始めた。一見普通の反省会のようだが、これも共想法の一環だ。


共想法では、「好きなおやつ」「趣味」などのテーマを決めて写真を持ち寄り、聞き手と話し手が交代しながらグループで会話する。週1回4週間続け、5週目にこれまでの写真を見せて、誰がどんなテーマで話したか、思い出せるか測定する。


大武さんは、認知症の祖母と接した経験から、写真を手がかりにすると会話が弾み、記憶が呼び覚まされることに注目。新たな認知症予防法として発展させた。


認知症予防には、出来事を時系列で覚える「エピソード記憶」と、複数の事柄に注意を配る「注意分割力」、計画を立てる「計画力」の三つの認知機能を刺激する活動が有効とされる。共想法は、自分の体験をテーマに話題を計画し、複数の聞き手に注意を向けることで、この三つを効果的に使えるように工夫した。


予防効果は検証中だが、写真を用いることでコミュニケーションが活発になる効果は明らかだ。


研究所自体は、NPOとなる1年前から活動しており、これまでに約100人の市民が共想法に参加した。NPO副代表理事を務める最高齢の長谷川多度(よしのり)さん(84)は「共想法はまだ新しく、ベンチャー企業を担うような気持ち。みんなが適材適所で能力を発揮し、活動に充実感がある」と元気いっぱい。3年前にくも膜下出血で倒れ、認知症に不安を感じて参加した田口良江さん(70)も「退院直後は人前に出るだけで不安だったのに、研究所で発表したり講座の手伝いをするうち、少しずつ積極的になれた」と話す。


大武さんは「市民と一緒に研究を根付かせて、高齢者も安心して暮らせる街づくりに貢献したい」と意気込んでいる。(片山圭子)


読売新聞
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