スウェーデン認知症ケア(中)

2007年 03月 09日 (金) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

(中)画面でやり取り、孤立防ぐ


双方向


ストックホルム市の北西にある人口約6万人のイエルフェラ市。市役所の一室で、開発担当官のアネッテ・ボリーさんと作業療法士のオーサ・ビハーゲルさんがパソコンを起動すると、画面にお年寄りの笑顔が大きく映し出された。


「調子はどうですか」

「いいよ」


答えたのは、アルツハイマー病の妻を介護して6年というレナルト・アンデルベルグさん(77)だ。


認知症高齢者の自宅にテレビカメラ付きパソコンを設置し、市役所と結んで住み慣れた家での生活を支援する。「アクション」と呼ばれるシステムで、同市では昨年スタートし、16世帯が利用している。


活用法は様々だ。介護で痛めた腰をほぐす運動も、薬の飲み方も、シーツ交換の方法も、パソコンの画面を通じて、双方向で教えてもらえる。料理が苦手な高齢男性は、作り方を問い合わせることもできる。


「カラオケもありますよ」。ビハーゲルさんが操作すると、スウェーデンの古い歌が流れてきた。歌詞が出てきて一緒に歌えるようになっており、一種の「回想療法」ともいえる。「メールも使えるので、孤立せずに社会とつながりを持てるようになった」。画面の中でアンデルベルグさんはほほ笑んだ。


節約効果


アクションは、もともと欧州連合のプロジェクトとして1997年に始まった。スウェーデンでは結果が良かったため、他国がプロジェクトを終了した後も、独自に継続。改良を重ね、現在は、7自治体で実施している。


「情報技術(IT)は人間味に欠ける」との印象を払しょくするため、市では、月1回は職員が利用者宅を訪問する。もちろん、事前にパソコンの講習会を開催する。パソコンのレンタル費用、回線使用料、人件費などで1家族につき年3万6000クローナ(約60万円)かかるが、現在は国の研究プロジェクトとして保健・社会省が全額負担しており、利用者負担はない。


「ヘルパーの派遣回数を減らし、施設入所を遅らせることができるため、1家族年約9万6000クローナ(約159万円)の費用抑制が見込める」とボリーさんは言う。


国家戦略


スウェーデン政府は「ITと介護」に力を入れており、昨年3月、医療・介護分野におけるIT利用についての国家戦略を発表した。戦略は医療・介護の実施責任を持つ自治体に伝えられ、自治体はそれぞれが計画を練ることとなった。また、12月には、07年予算に9800万クローナ(約16億2000万円)を計上した。


民間ベースでも、センサーに反応するおむつ、薬を飲む時間を知らせる携帯電話など、様々な製品やアイデアが登場している。医療・介護分野のIT事情に詳しい「ユーザーズ・アワード」代表取締役のオーベ・イーバルセンさんは、「ITは非人間的ともいわれるが、使い方次第で認知症高齢者とその家族の孤立を防ぎ、生活の質を上げる重要な道具になる」と強調する。


要介護高齢者の増加とともに「老老介護」が増え、介護者不足が予想されるのは日本もスウェーデンも同じ。日本でも、GPS(全地球測位システム)を使った位置探索やセンサーを用いた見守りシステムなどがあり、技術ではひけをとらない。だが、利用者心理のツボを押さえたスウェーデンのIT活用法には、経験に培われた温かさがある。参考にすべき点も多い。


読売新聞
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