若年性アルツハイマー病(2)

2006年 04月 04日 (火) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

まさか妻が病気とは…


東京の下町に住む古川よし子さん(58)に初めて会ったのは、廃校となった東京・六本木の中学校の校舎でのことだった。


若くして認知症を発症する若年認知症の家族会「彩星(ほし)の会」など福祉団体が事務所を置くこの校舎で、同会代表の干場功さんから紹介された。


「ここの仕事を毎日手伝ってくれるんです」「古川です。いろいろとお世話になっています」


にこやかに頭を下げ、事務所に戻る古川さんを見送りながら思った。「ご主人が認知症なので、奥さんがここで働いているのかな」。ところが、干場さんは予想外の言葉を口にした。「古川さんはアルツハイマーなんです」


認知症の一つであるアルツハイマー病は、65歳未満で発症する場合も少なくない。初期には、新たな情報を記憶する力が低下し、日付や時間の感覚があいまいになったり、同じ質問を繰り返したりする。


東京都老人総合研究所の精神科医、本間昭さんは「最近見た映画の内容を思い出せないことは誰にもあるが、映画に行ったこと自体を思い出せない場合、病的な記憶障害の可能性がある」と話す。ただ、初期には思考力の低下は軽度で、病気が表面化しにくい。古川さんも、初期だった。


先月初めの日曜日、古川さんの自宅を訪ねた。


六本木のうなぎ屋で働く夫の義勝さん(51)は、優しい目をしている。明るい笑顔のよし子さんとお似合いの夫婦だ。コツコツためた貯金を合わせ、10年前の結婚を機に購入した自宅の居間に通された。


まず、先日の驚きを伝えた。「奥さんが認知症とは思わず、てっきりご主人が病気かと……」。夫婦は声をあげて笑い、よし子さんはいたずらっぽく言った。「この人がボーッとした感じで患者役をやって、私がいろいろと説明したら、うまくいったかも」


浅草生まれのよし子さんは、学生のころから実家の飲食店を手伝い、卒業後は品川や新橋のやきとり屋で働いた。福島県出身の義勝さんは、高校卒業後に上京し、料理の腕を磨いた。


「二人でうなぎ屋を開く」夢に向け、家計はよし子さんが取り仕切った。義勝さんの小遣いは世間の相場より少なく、通勤の定期券を買った日は「おつりをポケットに入れる誘惑」に駆られた。だが、甘くない。風呂から上がり、布団に潜りこもうとする直前、よし子さんの右手が伸びる。「お・つ・り」


異変が起きたのは3年前。厳しい「取り立て」が、その日はなかった。「おかしいな」と思ったが、ちょっとうれしい。それがアルツハイマー病の兆候とは、思ってもいなかった。


初期(軽度)のアルツハイマー病 新たな記憶が保たれにくくなり、時間の感覚が狂ったり、きょうの日付や自分が経験した出来事を思い出せなかったりする。仕事などへの自信を失い、うつ的症状を併発することもある。


読売新聞
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