認知症ケア 初めの一歩

迫真!恍惚の人


認知症(痴呆(ちほう))高齢者は現在、約170万人と推計され、30年後には376万人、実に65歳以上の10人に1人がなると予測されている。人ごとではない認知症に、私たちはどう向き合えばよいのだろうか。シリーズ「認知症ケア」では、基礎知識やケアの現状、課題などをお伝えする。(猪熊律子)


100万部


「『恍惚(こうこつ)の人』は爆発的売れゆき」。1972年12月25日の読売新聞朝刊に掲載された記事の見出しだ。


ぼけの実態を生々しく描いた有吉佐和子さんの小説「恍惚の人」が出版されたのは、その年の6月。出版元の新潮社によると、わずか4か月で100万部を超すベストセラーとなり、映画化もされた。


小説は、主婦の昭子が町なかで、義父の茂造の徘徊(はいかい)を見かけるシーンから始まる。妻を亡くしたのに、「婆(ばあ)さんは、いつまで寝てる気ですかなあ」と言う茂造。妄想、「弄便(ろうべん)」などがリアルに描かれ、息子の信利は、「老いるということの窮極(きゅうきょく)は、これか、と思う。それは死よりも昏(くら)く、深い絶望に似ている」と思う。


「この作品のすごさは、老後の中には死よりも恐ろしい世界があるのだということを、鮮やかに切り取って見せたこと。増大する認知症高齢者の介護という社会問題に、いち早く光をあてた。家族におんぶに抱っこの福祉施策の貧しさをきっちり伝えた点も大きい」とNPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長の樋口恵子さんは言う。


そのころ、しゅうとめの介護をしていた「呆(ぼ)け老人をかかえる家族の会」理事の笹森貞子さんは、「当時は嫁の介護は当然と思われており、わかる、わかるとむさぼるように読んだ」と振り返る。


国が認知症高齢者の出現率を初めて推計したのは、それから十数年後の87年。グループホームが広まったのはここ数年のことだ。


「恍惚の人」という言葉が独り歩きし、「認知症の人=何もわからない人」という間違ったイメージも広がった。「今後は、何もわからない人ではないとの理解を広めることが大切」と樋口さん、笹森さんは口をそろえる。


70の病気


認知症は老化による物忘れと違って、記憶障害などを特徴とする病気だ。脳の知的な働きが、アルツハイマー病、脳血管障害など約70の病気によって持続的に低下し、日常での介護が必要になる。


最近の研究では、原因となる病気によって治ったり、進行を遅らせたりできる場合があることがわかってきた。「病気との認識を持ち、早めに受診することが大切」と、東京都老人総合研究所の本間昭・参事研究員は強調する。


記憶障害には〈1〉新しいことが覚えられない〈2〉すっぽり記憶が抜け落ちる〈3〉現在から過去に向かって蓄積された記憶が失われる――の三つの特徴があり、「これらを理解していれば、認知症の人の行動の7割は理解できる」と、川崎幸クリニック(川崎市)の杉山孝博院長はアドバイスする。


読売新聞
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