若年性アルツハイマー病(1)

2006年 04月 03日 (月) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

「存在」認める大切さ


認知症を引き起こすアルツハイマー病は、40、50歳代で発病すると、一家の大黒柱が退職を迫られるなど、患者や家族の悩みは計り知れない。


この若年性アルツハイマー病をテーマにした映画「明日(あした)の記憶」も来月13日公開される。連載の初めに、映画に主演する渡辺謙さん(46)に、この病気や作品に込めた思いを聞いた。


「明日の記憶」は作家、荻原浩さん原作で、山本周五郎賞を受賞した。50歳で若年性アルツハイマー病を発症した広告会社勤務の主人公と、献身的に介護する妻の姿が描かれる。


主人公を演じた渡辺さん自身、1989年に急性骨髄性白血病になり、過酷な闘病生活を送った。以来、仕事でも「患者役は軽々しく演じられず、お断りしてきた」という。


だが、今回は違う。患者や家族の思いを丹念に描いた原作を読み、「これまで抑えてきたものを解き放ちたい衝動に駆られた」。自ら映画化を働きかけ、脚本作りにもかかわった。


だが、目指したのは「患者の苦しみを生々しく表現することではない」という。「患者の存在を自然に受け止め、認める関係の大切さを描きたかった」


映画作りに生かそうと、福祉施設へ認知症患者に会いに行った。車いすに座ったまま動かない男性患者の姿が印象に残る。


「かなり症状が進んだ患者さんで、職員の言葉にも無反応。でも、確かにそこにいて、息をし、肌で感じていた。思いをうまく伝えられないだけなんです。我々の方こそ、その思いを受け止める力が必要なんだと感じました」


患者は意思を伝えられず精神的に追いつめられる。「周囲の人たちは、患者の新たな人生を受け入れ、支えになって欲しい」。そう語る渡辺さんも闘病中、多くの人に支えられた。


「自分を必要としてくれる人がいる。プロデューサーやディレクター、そしてたくさんのファンが待っていてくれる。まだ社会とつながっている、つながっていたいという思いが、病気と闘う力になりました」


アルツハイマー病は、現代医学では治せない。記憶を徐々に失い、やがては家族の顔さえ忘れてしまう。しかし、渡辺さんは「人生をもう一度生き直す過程ととらえたい」と話す。主人公が山中で妻と再会するラストシーンに、その思いが込められている。


若年性アルツハイマー病の患者は、どのような思いで日々を送っているのか。それを聞くため、この連載では、3組の患者と家族の姿を追った。


アルツハイマー病 脳こうそくなど脳血管疾患と並ぶ認知症の代表的疾患。原因不明で、脳内にベータアミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が沈着し、神経細胞が徐々に破壊される。65歳未満で発症した場合が「若年性」。10万人前後とみられる若年認知症患者のうち約3割がアルツハイマー病と考えられている。


読売新聞
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