若年性認知症の苦悩

2006年 03月 27日 (月) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

働き盛り…突然の記憶障害


働き盛りを突然襲う「若年性認知症」を支援する動きが、このところ活発化している。映画や本が静かなブームを呼び、家族会も相次いで発足。26日には、患者・家族を全国レベルで支える支援センターも旗揚げした。(社会保障部 阿部文彦)


現役の認識強く


認知症は、記憶障害を中心とする病気で、主な原因としては、アルツハイマー病や脳血管性障害のほか、交通事故の後遺症によるものもある。高齢者に多いが、20歳代で発症するケースもあり、64歳以下を若年性と呼ぶ。


日時、日常生活の出来事、道順などを忘れ、進行すると徘徊(はいかい)などの行動障害が出るのは高齢者と共通した症状だ。若年性の患者数は、厚生労働省の補助事業による調査を根拠に、全国で10万人前後とも言われているが、正確な実態はわかっていない。


最初は「あれ、何だっけ」といった一時的な物忘れから始まるが、やがて会議の予定を忘れたり、同僚の名前や取引先の場所がわからなくなったりするため、仕事を続けることができなくなる。根治療法はなく、高齢者よりも進行が速いとの説もある。


「高齢者とは異なる介護が必要だが、自分の住む地域で、どの施設が受け入れ可能かといった情報を、家族が入手するのは難しい」と、治療の草分けとして知られる精神科医の宮永和夫さん(群馬県こころの健康センター所長)は指摘する。


若年性の場合、エネルギーが旺盛で、適度に発散させないと、問題行動を引き起こしやすい。自分は現役だという意識も強く、押しつけがましい介護を嫌う。


専用の介護サービスはないため高齢者用の施設を利用することになるが、「力が強く介護が難しい」と受け入れを拒否されるケースも少なくないという。


専用のケア必要


支援の取り組みは遅れていた。若年性認知症の家族会「彩星(ほし)の会」が発足したのは2001年。これと前後して各地に家族会が誕生。大阪府の医療・福祉関係者により支援組織「愛都(アート)の会」が設立されたのは昨年だ。


こうした中、新年度にかけて、新しい動きが相次いでいる。厚労省は4月から、若年性の特性に合わせたケアを行った場合に介護報酬を上乗せする。10年ぶりの実態調査も計画している。


民間では、26日に、患者・家族を全国レベルで支援する「若年認知症支援センター」が旗揚げした。経済面での相談のほか、介護者の人材養成、介護施設の紹介、家族会などの運営支援などを行う予定だ。


専門のケアを提供する事業者も登場した。NPO法人「いきいき福祉ネットワークセンター」は5月から、全国初という若年性認知症専用のデイサービスを、東京都目黒区を拠点に開始する。


若年性専門のデイサービスは、これまでは家族会により自主的に行われてきたが、介護保険では高齢者と一緒の扱いだった。「若年性の利用者への対応がわからないという施設もまだまだ多い。患者・家族が望むサービスを実現できれば」と、同ネットワーク理事長の駒井由起子さんは話す。


若年性認知症と介護保険


介護保険では、40~64歳の場合、アルツハイマー病などの老化に伴う認知症は保険給付に含まれているが、頭部外傷などは除外される。また、介護保険の対象外の39歳以下は全くカバーされない。


支援活発化・映画題材にも


「明日の記憶」


患者・家族が、支援と同様に期待するのがメディアの役割だ。かつて痴呆(ちほう)と呼ばれた認知症が広く知られるようになったのは、72年のベストセラー小説「恍惚(こうこつ)の人」(有吉佐和子著)に負うところが大きいからだ。


中でも期待を寄せるのが、5月13日に公開される映画「明日(あした)の記憶」。同名の原作(荻原浩著、光文社。04年10月発行)は、山本周五郎賞などを受賞し、現在18万5000部のベストセラーとなっている。


主演のハリウッドスター、渡辺謙さん(46)が演じるのは、あぶらの乗り切った49歳の広告マン。物忘れに悩まされるようになり、妻の勧めで受診した病院で若年性認知症と診断される。


二人三脚の闘病生活が始まるが、やがて仕事がままならなくなり、会社を辞めざるをえなくなる。専業主婦だった妻は、家計を支えるため働きに出ることに。家に残され、情けなさと、外で働く妻の生き生きとした様子にしっとして苦しむというストーリーだ。


働き盛りで発症する若年性認知症には、失業や子育てへの障害など高齢者と違った悩みがあり、特に一家の大黒柱の場合は切実だ。映画を監修した東京都老人総合研究所の本間昭・参事研究員は「現役の社会人が病気でリタイアする苦悩は深い」と話す。


十数年前、急性骨髄性白血病で銀幕から消えた経験を持つ渡辺さんは「社会との接点を失うことへの恐怖は良く理解できる。でも、それは人生の終わりではない。この映画が、悩んでいる人や家族の案内役になれば」とメッセージを送る。


「明日の記憶」を試写会で見た家族会「彩星の会」の干場功副代表は「若年性認知症への理解が広がるきっかけになれば」と、5月の公開を心待ちにしている。


読売新聞
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