認知症の高齢者 財産守れ

2005年 08月 01日 (月) | Category : 認知症

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

成年後見制 普及の兆し


成年後見制度を活用する取り組みが、施行後5年を経て、全国の自治体でようやく本格化する気配をみせている。悪質商法が広がる中、高齢者の人権や財産を守る安全網への期待が、先進事例からうかがえる。(社会保障部 阿部文彦)


富士見の事件


認知症(痴呆(ちほう))の老姉妹が、高額の住宅リフォームで全財産を失うなどして、対応に追われた埼玉県富士見市。同市の顧問弁護士を姉妹の成年後見人とする、さいたま家庭裁判所川越支部の決定が7月28日に確定した。


「業者から返還された工事費の管理など、市では扱いにくい問題もあった。後見人が代理として財産を管理してくれるので、業者との交渉もスムーズにできる」と、同市高齢者福祉課の庄野拓男課長はホッとした様子だ。


明治以来の歴史を持つ禁治産制度に代わり、成年後見制度が施行されたのは2000年4月。高齢者福祉の観点から、本人や親族などに加えて市町村にも、身寄りのない判断力が衰えた人に後見人を申し立てる権限を与えた。


後見人がいれば、老姉妹が悪質業者と取り交わした契約を取り消すことができる。同市は、民事訴訟も視野に入れた返金交渉や、今後の被害防止などのため制度の利用の検討を開始。老姉妹の親族の了解を得て、後見人申し立てに踏み切った。


市では、民事訴訟などが終了した後は、介護や医療など、より生活に密着した分野に強い社会福祉士や司法書士に後見人を変更するなど、きめ細かい運用で制度を活用する方針だ。


独自補助も


「後見人研修の補助は出るのか」「区市町村への補助の期間は?」


6月下旬、東京都庁で開かれた「成年後見活用あんしん生活創造事業」の関係機関会議。参加した都下の区市町村、法曹・福祉団体の関係者は、担当者の説明に熱いまなざしを向けた。


認知症患者が約16万人とされる都が今年度から始めた事業で、区市町村が成年後見制度推進機関を設置、運営する際に補助金を出し、10~15万円とされる申立費用、月2、3万円の後見報酬などを助成する。事業費は今年度分だけで約3億円を見込んでいる。


5年後には49の区市すべてに推進機関を整備する。補助の幅も広げ、費用の面で低所得者には使いにくいとの批判にもこたえた。


地域の力


埼玉県は7月29日、地元企業や行政機関、NPO(非営利組織)など30団体の参加を得て、「要援護高齢者等支援ネットワーク会議」を設立した。支援の必要な人を見つけ出すのが目的だ。


この役割は、現状では民生委員、社会福祉協議会などが担っているが、今後は新聞配達員やガスの検針員なども協力する。同県長寿社会政策課では、「地域の結びつきが薄くなり、弱者を見つけ出すのが難しくなっている。ネットワークを活用し、成年後見制度を含めた福祉サービスにつなげたい」としている。


このほか、島根県出雲市では2004年度から、「出雲成年後見センター」に、市が申し立てる際の助言や、後見人の選任を委託。民間と二人三脚で、制度の活用を図っている。


成年後見制度 認知症の症状は徐々に重くなり、本人にも判断能力の衰えが意識しにくい。富士見市の例でも、契約当時に、判断能力がなかったのかを明確に示すのは難しい。「道義上返すが、契約は正当だったと主張する業者が今もいる」と市の担当者は指摘する。


改正介護保険法では、高齢者の権利擁護が市町村の任意事業から必須事業となった。これまでは、「4親等だから難しい」という言い訳も通じたが、今後はそうはいかない。受け皿不足というなら、退職を迎える団塊の世代などをボランティアの後見人として活用する手もある。


取り組み 市町村で格差


厚生労働省は介護保険制度が導入された翌年の2001年、成年後見制度を広報したり、市町村が申し立てたりした場合の費用を助成する「成年後見制度利用支援事業」を始めた。しかし、実施市町村は04年4月時点の調査で、19・7%にとどまる。


わずか3%


「役所の窓口で相談しようとしても、成年後見制度に無知な担当者が少なくない」と、社会福祉士の田村満子さん(大阪市)は指摘する。4親等の存在確認が必要など手続きが煩雑だったこともあるが、制度自体への関心もまだ低い。市町村の申立件数は、2004年度でわずか509件。前年度の437件に比べて増えているものの、全体の約3%にすぎない。


横浜市は昨年12月に「親族の確認は2親等まで」という独自の手引を作るなど、制度の活用に積極的だ。細川哲志・地域福祉課長は「市町村申し立ての活用で、成年後見制度を“社会化”することができる」と、自治体が取り組む意義を強調する。申立件数は年間約30件と、人口規模から見ればまだまだ少ないが、調査の過程で親族が申し立てを決断するケースも少なくなく、市職員が流した汗は徐々に実を結んでいる。


「公」の責務


支援が必要な高齢者へのケアは、行政が支援対象を見つけて介護などのサービスをあてがっていた措置制度から、利用者がサービスを選ぶ介護保険へと移行した。成年後見制度の市町村申し立ては、措置制度の機能を代替する意味合いもあった。


厚労省は7月29日、市町村の申立要件を緩和する通知を出し、親族確認の範囲を、4親等以内から2親等以内とした。富士見市の庄野課長は「4親等以内すべてを調べるのは正直きつい。これで申し立てが増えるのでは」と話す。


高齢者は、悪質商法だけでなく、施設への入居、介護サービスの利用など、様々な局面で被害にあう危険に脅かされている。「自衛は困難という前提で『公』がしっかり関与しないと、問題の根本解決にはならない」と、関係者は指摘している。


読売新聞
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