高齢者の権利擁護に奔走

2005年 05月 31日 (火) | Category : 成年後見制度

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

大貫正男さん(57) 社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」理事長


「高齢者や障害者の暮らしを支える上で、成年後見制度が果たす役割は大きい。本人の意思を尊重し、人間としての尊厳を守らなければ」


旅行の夢もかなえます


午後の柔らかい日差しが差し込むテーブルに、青森旅行のスナップ写真が広げてある。十和田湖の遊覧船をバックに写したもの、観光会館内で着物姿の男性と写したもの……。「ほかにお客さんがいなかったのに、私たちのために民謡や手踊りを披露してくれたんですよ」と語る村杉小百合さん(仮名)(79)の楽しそうな表情に、「次回は京都でも」と思わず答えた。


認知症(痴呆(ちほう))などで判断能力が衰えた高齢者の人権や財産を守る成年後見制度がスタートしたのは、介護保険施行と同じ2000年。これに先立つ1999年、司法書士の仲間とともに、後見人などの受け皿となる社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」を設立した。


理事長として、成年後見制度の普及に取り組む傍らで、5人の高齢者の後見人を引き受けている。特別養護老人ホーム「ブロン」(埼玉県志木市)で暮らす村杉さんも、その一人だ。


「成年後見制度というと、財産管理にばかり目が奪われがちだが、楽しい老後を送る手段を提供することもできる」


足が不自由な上、軽度の認知症も患い、要介護3の認定を受けている村杉さんにとって、20歳代に暮らしていた青森への旅行は長年の夢だった。財産管理の委任契約と任意後見契約を結んでいた大貫さんは、旅行業者と交渉し、新緑が映える5月10、11日の2日間、介護者とともに十和田湖などを回る旅行を実現した。


埼玉県朝霞市出身。大学紛争のさなか、早稲田大を卒業し、司法書士の資格を取った。「何か人のために、住みよい社会を切り開くことができる仕事をしたかった」。85年に全国青年司法書士協議会会長を務めた後、日本司法書士会連合会理事などの活動に身を置く中で出会ったのが成年後見制度だった。


そのころ、認知症の高齢者の不動産取引にかかわり、子どもや配偶者が勝手になつ印をする様子に、痛みを感じた。精神上の障害を持つ人のためには、明治時代にできた禁治産・準禁治産制度があったが、「治産を禁ずる」という言葉自体への偏見が強い上、軽度の認知症には対応できないなどの問題点があり、ほとんど利用されていなかった。


「成年後見制度なら、判断能力の程度により弾力的に運用でき、高齢者の人権を守れると思った」


以来、旗振り役を務めたリーガルサポートの顔として、約3400人の会員の研修、市民への啓発活動などを進めてきた。「よく人の話を聞き、懐が深い」とは周囲の人物評。


成年後見制度の申立件数は、03年度で約1万7000件と徐々に利用者が増えているが、認知度はまだまだ低い。


同県富士見市では5月初め、認知症と診断された高齢の姉妹が、高額の住宅リフォームを繰り返され、代金が払えずに自宅を競売にかけられるという問題が発覚したばかり。「成年後見制度を利用していれば、契約の取り消しができたし、悪意のある業者に付け入るすきも与えなかったはず」と訴える。


また、子ども、兄弟姉妹、配偶者などの親族が後見人などになるケースが大半で、「本人と利益がぶつからない信頼性の高い者を選任する」という制度の理念が生かされていない上、身よりのない高齢者への対策も不十分だ。


「司法書士に限らず、退職者やボランティアなどを対象にした後見人の養成講座を開くなどして、受け皿を大きくしたい」(阿部文彦)


成年後見制度 認知症の高齢者や知的障害者など、判断能力の低下した人の財産管理や身の回りの世話を、後見人が行う制度。判断能力の程度により、補助、保佐、後見の3タイプに分かれ、それぞれ権限が異なる法定後見制度と、判断能力が落ちた場合に備え、事前に後見人を決めておく任意後見制度がある。


読売新聞
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