オムツを減らそう 安易な装着「寝たきり助長」

2007年 10月 11日 (木) | Category : 介護用品

わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。

2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。

わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。

人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。

そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。

介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。

今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。

高齢者介護・医療で当たり前のように行われているオムツ装着を見直す活動が広がっている。介護保険制度に「身体拘束の禁止」を盛り込む原動力となった看護師、田中とも江さん(58)の献身的な呼びかけで、オムツは最小限にして“トイレの自立”を促す介護士や看護師が徐々に増えているのだ。「安易なオムツ装着は排泄(はいせつ)感覚をマヒさせ、寝たきりを助長させる」と、田中さんは強調する。(八並朋昌)


ずっしり重く


介護現場などで使われる大半は、使い捨ての紙オムツ。不織布や吸水材により「いつもサラサラ」をうたっている。


だが田中さんは「これ見てください」と、紙オムツに大人1回分の排尿とほぼ同じ350ccの水を注いだ。しばらくして手でグッと押すと、表面に水がしみ出てきた。「体の重みで水は戻ってくる。寝ても座っても、いつもどこかが湿った不快な思いをしている」


吸水後のオムツは、ずしりと重い。「足が弱っているのに、ただでさえかさばるオムツが重くなり、足がもつれてひっくり返ったお年寄りもいる」。さらに「老廃物が四六時中皮膚に触れればただれるし、薬で緩んだ便が尿道に付いてぼうこう炎になる人もいる。オムツは場合によっては凶器にさえなる」とも。


ところが多くの施設や病院では、1度でもベッドを汚せばオムツを着けてしまうという。「常時オムツを着けると尿意便意の感覚を失う。交換などのためベッドに寝かせたままになり、筋肉は衰え関節は固まり、寝たきりになってしまう」。これは在宅介護でも同じことだ。


サインに注目


市場調査の富士経済によると、大人用の紙オムツは昭和37年に商品化された。高齢化の進展で市場規模は年々拡大し、今年の見込みは740億円と、昨年比で約11%増、10年前に比べると7割増にもなっている。


「6回分も吸収するから安心なんていうものもあるが、6回しても着けたままなのは逆に問題。カバー型の中に、さらに3枚もオムツを重ねる施設もある。介護する側の都合だけなんです」


田中さんが提唱するオムツ減らしの方法は、(1)紙オムツは一番小さく薄いパッドタイプを、ぴったり型パンツをはいて押さえる(2)水分摂取から排尿までの時間の“飲む出す”をモニターする(3)立ち上がったりおなかをさすったりする何らかの排泄サインを見つけトイレに誘導する-など。


「本人の力でトイレに移れば筋力も回復する。手伝う側とかかわりが増えれば精神面もよくなり、全身状態が改善する。最初は大変でも、排泄が自立できれば、結果的に介護の負担は減る」


人間の尊厳


実践している施設の一つが千葉県柏市の特養老人ホーム「沼風苑」。かつて利用者の3分の1がオムツを着けたまま寝たきりだった。疑問を感じた主任介護士の佐久間尚実さん(46)が平成14年に、オムツを外せそうな人は外し、トイレに座らせたところ、すぐに排尿できる人がいたという。


2年後、田中さんが講師を務める勉強会に参加してオムツ減らしの理論と技術の裏付けを得た。現在では利用者57人のうち、オムツを着けたままなのは8人だけ。


副主任の岡田麻衣子さん(23)は「福祉専門学校でもオムツは当たり前と習った。オムツ減らしを知らなければ、必要ない人にも着け、寝たきりにさせていたかも…」と打ち明ける。


「排泄自立が介護保険制度で評価されれば、介護士のヤル気につながる」と佐久間さん。


こうした活動に厚生労働省は「オムツ減らしの取り組みは注視しており、今後、実効性が確認されれば国としても何らかの検討をしたい」(老人保健局計画課)。


田中さんは「オムツを強制されて尊厳を失い、不快な思いで人生の終末を過ごすのは余りにかわいそう」と訴えている。


拘束禁止の先駆者 看護師、田中とも江さん


オムツ減らしを進める看護師、田中とも江さんは、福岡県の炭坑町出身。中学卒業後、働きながら准看護師になり、勤務した精神科病院で患者の悲惨な待遇を見て「改善するには自分に知識が必要」と看護学校に通い正看護師に。昭和61年から認知症患者らの「縛り付け」をなくす取り組みを始め、平成14年に「拘束廃止研究所」を設立。厚労省などの検討委員として、施設などでの拘束禁止を促した。NPO「市民の立場からのオムツ減らし研究学会」も主宰し、年の3分の1は講演・指導で全国を飛び回る。各地の施設・病院に請われて改革も行い、現在は岡山県の倉敷広済病院で取り組み中。


産経新聞
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