ヒートショック
わが国の高齢者介護は、1963年に老人福祉法が制定された以降、70年代の老人医療費の無料化、80年代の老人保健法の制定、90年代の福祉8法の改正・ゴールドプランの制定など、人口の急速な高齢化が進む中で、時代の要請に応えながら発展してきた。
2000年4月から実施された介護保険制度は、措置から契約への移行、選択と権利の保障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、わが国の高齢者介護の歴史においても時代を画す改革であり、介護保険制度の導入によって高齢者介護のあり方は大きく変容しつつある。
わが国の平均寿命は世界でも最高水準となった。高齢期は今や誰もが迎えると言ってよい時代となっており、また、高齢者となってからの人生も長い。その長い高齢期をどのように過ごすのかは、個人にとっても社会にとっても極めて大きな課題となっている。
人生の最期まで、個人として尊重され、その人らしく暮らしていくことは誰もが望むものである。このことは、介護が必要となった場合でも同じである。
そうした思いに応えるためには、自分の人生を自分で決め、また、周囲からも個人として尊重される社会、すなわち、尊厳を保持して生活を送ることができる社会を構築していくことが必要である。また、高齢者介護においても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要がある。
介護保険は、高齢者が介護を必要とすることとなっても、自分の持てる力を活用して自立して生活することを支援する「自立支援」を目指すものであるが、その根底にあるのは「尊厳の保持」である。
今、私たちの直面する高齢者介護の課題をとりあげたい。
冬の室内温度差 和らげる「断熱」
高齢者の安全を冬場に脅かすのが、室内の温度差だ。急激な温度差で身体の調子を崩す「ヒートショック」により、風呂場やトイレで転倒して大けがをしたり、死亡するケースが少なくない。(内田健司、写真も)
父が倒れて自宅改修
「台所に立つ妻が何より喜んだ。石油ヒーターの設定温度も18~20度と以前より3~4度低くても大丈夫。節約にもなった」
山形県鶴岡市の中心部近くに住む小野寺和幸さん(57)は、断熱改修で改善した住み心地をこう語る。
30年前に全面改築した家の水回りが老朽化し、対応を考えていたころ、父(81)が浴室の洗い場で2度、倒れた。家族が見つけ、大事には至らなかったが、当時の浴室のタイルはひびが入り、すきま風も時折吹き込んだ。晩酌してから入浴する習慣や、浴室内の温度差が原因で、軽い脳こうそくを起こしたのが原因と見られた。
当初、水回りと居間の内装工事を予定していたが、県外に住む弟が熱心に勧めたため、窓ガラスを2層にするなどの断熱工事を追加した。2005年夏、台所や浴室の全面改修に加え、1階すべての部屋や廊下の床下と2階天井裏に、グラスウールを吹き込んだ。さらに、室内の間仕切り部分からもすきま風が入り込まないようにした。
断熱工事を担当した旭ファイバー断熱システム(本社・東京都千代田区)の中村智明社長は、「すきまなく断熱するのが一番。断熱のために改修を希望する人はまだ少ないが、快適性を家族全員で共有してもらえる」と強調する。
浴室で事故多発
急激な温度変化で、血圧や脈拍が変動、時には脳こうそくなどを引き起こすヒートショックは、住宅内で高齢者が不慮の事故により死亡する大きな原因となっている。東京消防庁がまとめた家庭内における不慮の救急事故(2005年)によると、浴室で事故にあった1062人のうち、転倒が476人で、このうち、70歳以上が221人だった。水死するケースも目立ち、厚生労働省の人口動態調査(同年)では、全国で3691人にも達している。
断熱性能について、国土交通省は省エネルギー基準で対応している。新築のプレハブ住宅や一部マンションで先行しているが、既存の戸建て住宅の改修は、利用者や工務店などの理解は進んでいないという。
住宅環境に詳しい、北海道大大学院工学研究科の羽山広文助教授は、「脱衣や寝間着で利用する洗面所やトイレ、浴室などでは居住室以上に温熱環境を確保するなど『温度のバリアフリー』対策が重要になる」と警鐘を鳴らしている。
読売新聞』
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